元祖「資本のハイエナ」松尾隆に捜査のメス

2012年6月号 BUSINESS

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昨年5月に破産した、当時ジャスダック上場の不動産会社セイクレストをめぐり水増し増資の疑惑が持ち上がっている。4月中旬には大阪府警捜査2課が関係先を家宅捜索。証券取引等監視委員会も連携して関係者の任意聴取を進めている模様だ。

セイクレストの迷走が始まったのは2008年秋。東京都内の投資事業組合に不可解な私募債を発行、大量の新株が流出した。最後は手形を乱発。破産申立書によると、39通・約11億円の手形・小切手が振り出され、素性不明の会社や人物の手に渡った。ほかにも10年末には額面30億円もの約束手形が和歌山県橋本市の紀北川上農業協同組合に持ち込まれ、勝手に裏書きした組合長が、その後解任されるトラブルも起きている。

群がったのは名うてのブローカーたちだった。「シニア・ヴァイス・プレジテント」の肩書で入り込んだ「神谷光將」なる人物は、都内で天成ホールディングスという会社の顧問を務めるとの触れ込みだったが、その本名は紙屋道雄。丸石自転車の架空増資事件で検挙された過去がある人物だ。また、神戸市内の株式ブローカーは、これまた架空増資事件の舞台となった日本エルエスアイカードで暗躍していた一人。最後の大物仕手筋・西田晴夫氏の愛弟子とされる人物も噛んでいたようだ。

そうした中、かねて捜査当局が狙いを定めてきた有名アレンジャーがセイクレストに深く関与していた。その名は松尾隆。今回疑惑がもたれているのは10年3月に行われた不動産現物出資による大型増資。引受先となった福島県内の合同会社が連絡先としていたのは、東京・日本橋人形町の雑居ビルに入る松尾氏の事務所だった。

不振企業が新株乱発の「ハコ」と化す不公正ファイナンスの世界で、松尾氏は第一人者として知られる。1945年生まれで一橋大学卒業後、日産自動車に勤務。その後、外資系や国内中堅の証券会社を渡り歩いた。90年代半ばには、後に大正生命事件で有罪判決を受ける古倉義彦氏と接点を持ち、松尾氏は古倉氏に対し、当時禁じ手だった自社株買いの手法を指南した。

金融知識に長けた松尾氏がその道のパイオニアとして注目されだしたのは98年。名証上場のヤハギ(98年9月に準自己破産)が香港でユーロ円建て転換社債を発行する計画をぶち上げた際、背後で絵を描いていた。松尾氏はタックスヘイブン(租税回避地)のペーパーカンパニーを受け皿に私募形式の転換社債を発行する手法を開発。懇意の投資家から資金を集めて不振企業に注入し、それを新規事業名目などで社外に還流させる荒っぽいやり方をいち早く始めた。

不振企業を操るアレンジャーとして、その後の松尾氏は日本ファーネス工業(現NFKホールディングス)や山科精工所(現ヤマシナ)、キーイングホーム(現クレアホールディングス)、昭和ゴム(現昭和ホールディングス)といった銘柄に関与。近年はゼクスなど新興不動産会社に触手を伸ばしていた。

「最近の経営者はひどいもんですよ。こっちが一生懸命集めたカネをどんどん使っちゃうんですから」。能弁な松尾氏はいつも自らの正当性を主張、かわりに経営者批判を繰り返した。が、今回の強制捜査入り後、携帯電話は不通状態。今度ばかりは年貢の納め時かもしれない。

   

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