青空のような謙虚さ
2012年5月号 連載 [ひとつの人生]
吉本隆明が亡くなった。出先で訃報を聞いた。が、私の心は、騒がなかった。このところたいした付き合いも無かったせいか、それとも九州で田舎わたらいを続ける私にとって、東日本大震災がそうであったように、彼の死もどこか遠いよその出来事としか感じられなくなったのか、すっかりヤキが回っちまったと思いつゝ、私は目の前の雑事に出精した。しかし、帰宅後居間に掛かっている彼の自筆の額を、私はしばらく眺めていた。「ほんたうの考へと うその考へを 分けることができたら その実驗の方法さへ決れば 吉本隆明」一九八三年、私が住む鹿児島県出水市の西照寺で親鸞について話しをしてもらった折、私が差し出した芳名録に、彼はこう書いた。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の中の言葉だ。お世辞にも流麗とは言えず、意志そのものといった筆のはこびを見ながら私は、この人は文人墨客というよりはやは ………
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