「内省なき国家」の射影幾何学

2012年2月号 連載 [いまここにある毒]

  • はてなブックマークに追加

200年前、ナポレオンのモスクワ遠征に従軍した砲兵士官がいた。ジャン=ヴィクトル・ポンスレ。スモレンスクの戦いに敗れ、2年間はヴォルガ河畔で虜囚の身だった。本も紙も鉛筆もなく、木炭のかけらで獄房の壁に図や式を描き、黙想だけで射影幾何学を生みだした。紙ナケレバ、土ニモ書カン、空ニモ書カン。大阪地検特捜部元部長の手記(大坪弘道『勾留百二十日』、文藝春秋)を読んだ。落胆した。苛斂誅求の権化から裸の被疑者への転落が綿々と綴られているが、全編これ泣き言である。最高検のトカゲの尻尾切りと戦い、拘禁反応に耐えた孤独な自画像への肯定しか書いてない。いい例が妻にも聴取すると聞いて逆上し、「検察の秘密を暴いてやる」と啖呵を切るシーン。検察の「組織悪」と本気で戦うなら三井環事件を暴けばいいのに、結局、一語も書いてない。家族や弁護士を心の支えとし、中村天風と相田み ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。