うつ病時代の処方箋

安心・安全に潜む「魔物」

2011年10月号 連載 [眠れぬ夜のバラード ~うつ病時代の処方箋~]

  • はてなブックマークに追加

母は私が小さい頃よく鎌鼬(かまいたち)の話をしたものである。野良などで仕事をしていると、不意の一陣の風の後、身体に切り傷が刻まれる現象をいう。諸説あるが、原因はまだわかってはいない。広々とした見通しの良い野良で、突然襲われるため、伝承では魔物の仕業とも言われてきた。そのいつ襲われるかわからない予測不能性に、私は恐怖を感じたものである。こうした予測しえないことへの対処に、日本人はいま追われ始めていないだろうか。二言目には安心・安全がしきりと叫ばれ「危険を予測できるようにせよ」と求められる。しかし、予測できることは案外少ない。明日は何が起きるかわからない。人々の心の底にかつてなく不安が立ち籠め、それが安心・安全のスローガンを生みだしているのではないか。平和を装う社会の隙間に、予測できず、対処のできない鎌鼬が潜んでいることを、人々は感じ始めて ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。