2011年9月号 連載 [いまここにある毒]
7月20日、英国の画家ルシアン・フロイドが88歳で死んだ。彼の絵を一目見れば息をのむ。むきだしの裸体のあの醜さ。ぶよぶよの肉塊、赤黒い陰部、尖った肋骨……どれも正視に堪えない。3年前、醜悪の極のような有名な裸婦像に、存命画家で最高の35億円を超す値がついたが、どんな富豪でもあの絵の前で平然と談笑し食事できる人はいないだろう。精神分析学の祖ジークムント・フロイトの孫だけに、何ものも暴かずにはおかない。妊婦でも恋人でも実の娘でも、無残な裸にしてポーズをとらせる。仮借ない眼差しに、荒々しい女性遍歴と多数の子を産ませた「火宅の人」の執着が底光りしている。その非妥協は女王エリザベス2世の肖像でも発揮された。王冠を頂いた銀髪の老女像は、長年の元首の強固な意志を表すおっかない顔で、一点の美化もない。大衆紙は「歪曲」と騒いだが、王室コレクションに入れた女王の度量 ………
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