2011年8月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第64回]
ドーン、ドーンという轟音が北辺の街、根室の空気を震わせた。直下型の地震を思わせる揺れが街全体を通り抜けていく。一定の間隔を置いて、ドーン、ドーン、ドーン。室内にいても地鳴りのような振動が身体にずしりと伝わってくる。「この揺れを地元では空振と呼んでいるのですが、どうやらロシア軍が国後島で実施している軍事演習によって引き起こされているらしい。使用期限が切れた爆薬の処理を行っているという情報も洩れ伝わってくる。でも確かなことは判りかねます」根室に住む知人はこう語って、日ロの国境に新たに持ち上がった異変に不安げな表情を見せた。その日、日本列島の最も東に位置する納沙布岬まで出かけてみた。わずか数キロ先の貝殻島も、彼方の国後島も、深い霧に覆われて姿を見せなかった。「ロシアに占拠された北方領土を沖合いに望みながら暮らしているのに、空振の原因すら確かめ ………
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