2011年5月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第61回]
これが最後 これが最後と思ひつつ 面会の母は八十五になるわが遺体のひきとり先など おいそれと 届書の欄に記せるものかこの2首は歌人坂口弘の作品である。坂口は連合赤軍あさま山荘事件の死刑囚である。坂口の冒頭の短歌に心動かされ、歌集『常(とこ)しへの道』(角川書店)を読んだ。そのうえで坂口という人物をもっと知りたくなり坂口著『あさま山荘 1972』の「上」「下」「続」(彩流社)の3冊を読んだ。 一気に読み通したが不思議なぐらい読み終えたあとに爽快感が残った。榛名山中でのリンチ殺人など壮絶な場面の連続なのだが、読後感が悪くないのは、嘘くさいところがないからだと思う。自己弁護のにおいがしないのである。書いた本の内容がいかに真実に基づくものであったとしても、犯した罪は減じられるものではない。それを承知で読み進んだが、そこから浮かび上がる坂口弘という人間 ………
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