私の精神科病棟の避難訓練

2011年5月号 連載 [眠れぬ夜のバラード ~うつ病時代の処方箋~]

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津波の可能性がある時、避難指示の遅れは許されない。しかし、わずかな時間で指示するか否か、決断することは簡単ではない。30年前、田舎の病院にいた時のことである。そこは総合病院に併設された精神科で、精神科医は私一人であった。駆け出しの私が60人の入院患者の責任者となったのである。病院の本館は鉄筋の耐火建築だったが、精神科病棟だけは築25年ほど経った木造だった。戦後間もなく造られた結核病棟の窓に格子をはめて、精神病患者を収容していたのだ。いまではありえないが、そのころ、精神科病棟はそれが普通だった。病棟のドアには鍵が付けられていたが、ドアごとの鍵はすべて異なり、職員は少なくとも5種類の鍵を持たねばならない。ある日の午後、入院患者の一人が、面会の家族が不用意に渡したタバコをこっそり吸って、畳を焦がした。日中で人手が多く、すぐに消し止めたが、ナースの一 ………

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