「情報音痴」外相の空しき成果

2011年4月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第60回]

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ブナの森のなかをふたつの小径(こみち)が直角に交わっている。木枯らしが舞う散策の径(みち)を毎朝おなじペースで歩いてくるひとがいた。午前8時には決まって森の十字路に姿を見せる。目深にかぶったチロリアンハットの陰から大きな丸顔が覗き、眼光は炯々として鋭かった。このチロリアンハットのひとこそ、ヨーロッパ外交界に聳え立つ巨人、ハンス=ディートリッヒ・ゲンシャーだった。ベルリンの壁が崩壊して数年、欧州連合は東方に拡大を続けて、北の大国ロシアと緊張を孕んでいたころのことだ。「ドイツの小さな町」と呼ばれた暫定首都ボン。その郊外にあるペヒ村に私は住んでいたのだが、村人たちに誘われてよく森の散歩に出かけ、予期せぬ出会いに恵まれたのだった。森の十字路で互いに挨拶し、やがて晩餐会で言葉を交わすようになった。自由民主党を率いて時の与党と連立を組み、政権の副首 ………

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