『トイレの神様』が誘う郷愁

2011年2月号 連載 [眠れぬ夜のバラード ~うつ病時代の処方箋~]

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『トイレの神様』という曲が、年末の歌合戦で歌われた。トイレがテーマの歌がメジャーになりえたのは、優れた作品であったからだけではなく、日本人のトイレへのかすかな郷愁が後押ししたためではなかろうか。ルイ14世時代のベルサイユ宮殿には、常設のトイレがなかった。貴婦人たちも庭の繁みで用を足していた。ロンドンでも1830年ごろのコレラの蔓延に懲りて、ようやく家々にトイレが完備されたのは1900年代であった。しかし、日本には平安時代からトイレがあった。遺跡の発掘などでも、一定の場所から回虫の卵などの化石が見つかっている。司馬遼太郎の戦国小説でも、トイレの天井に忍者が潜む話が出てくる。そもそも日本のトイレには、神様だけでなく妖怪もすむ。日本全国の小学校のトイレには花子さんが住んでいる。いじめもトイレに押し込める場合が多い。トイレは神聖にして、怖いところでもある ………

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