「裏の裏」は黙して
2010年12月号 POLITICS [ひとつの人生]
すうっと手がのびてきて、心の奥をさりげなくつかむ。そして自家薬籠中に。そんな人だった。「あなたの文章は保田與重郎だね」と言われてハッとしたことがある。「無官の大夫」というエッセイを「文藝春秋」(95年4月号)に載せたときだ。彼の刎頸の友ともいうべき竹下登元首相が長時間インタビューで「僕は無官の大夫だから」とつぶやいた話が枕だった。わざわざ「ムカンは冠じゃなく敦盛の無官」と注釈してくれた竹下氏の気くばりに「なかなか教養人ですね」と福本氏に感心してみせたら、破顔して「一谷嫩(ふたば)軍記だろ? あいつのは耳学問さ」と言い放った。教養人はオレだといわんばかり。でも、なぜか憎めない。竹下氏の母が松江高女時代に、「福本イズム」で一世を風靡した福本氏の父(和夫氏)に憧れ、実家の造り酒屋に「大衆」というブランドが生まれただけに、二人は何でも言える仲だっ ………
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