2010年11月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第55回]
テキサスの石油王、ハント兄弟が仕掛けた銀の買い占め事件――。アメリカの商品取引市場を揺るがした1979年の出来事は、インテリジェンスに関わる者の間でいまも貴重な教訓として語り継がれている。この兄弟は、銀の相場が低迷していることに目をつけ、世界各地の市場を通じて銀を買いまくった。一時は全流通量の半ばを押さえ、銀価格は1オンス・9ドル台から一挙に50ドル台を超え沸騰していった。それはロデオを思わせる荒くれ相場だった。「このままでは、アメリカの富の3分の1は、強欲なハント兄弟の手に握られてしまう」市場関係者は真顔でこう心配したが、ハント兄弟は高値で売り抜けることができなかった。銀は流通量が限られていたからだ。結局、膨大な建て玉を抱えたまま、価格操作の疑いで訴追され、希代の相場師は破滅していった。この買い占め事件は、貴重な鉱物資源を原材料に使う製造業に衝撃 ………
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