多田 富雄氏(免疫学者[東大名誉教授]) 

「未必の死」を生きて

2010年6月号 連載 [ひとつの人生]

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もう18年半も昔のことになるが、彼に取材した。東大・本郷の医学部教授室。窓から三四郎池が見えた。その記事には、思えば恐ろしい見出しがついている。「死を透視するまなざし」すでに文化功労者となっていたこの免疫学の泰斗をつかまえて、彼が書いた新作能「無明の井」の話を聞いたのだ。能との出会いは、高校3年で家出して本郷の住み込み店員になっていた時代からだ。ふと神保町の共立女子大学講堂の能の催しをのぞいて以来、病みつきになったという。研究のかたわら大倉流の小鼓を習い、当時の脳死論議に一石を投じようと、中国上古の『列子』を下敷きに、心臓移植の男女の死ぬも生きぬもならぬ争いを、謡曲に仕立てたのが「無明の井」である。新作能嫌いの橋岡久馬師(観世流)を説き伏せて、フシと舞の型をつけてもらい、1991年2月、国立能楽堂で上演された。「なう、我は生き人か、死に人か」そ ………

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