木戸日記と船上の『テス』

欧州への旅と女性の面影

2010年5月号 連載 [日記逍遥 第16回]

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木戸幸一の日記は大人の日記である。華族の反逆児・有馬頼寧の日記のように、恋しさを切々と綴るわけでもないし、陸軍皇道派の将軍・眞崎甚三郎の日記のように、憎しみを激しく書き殴るわけでもない。恋も愛も、憎悪も嫌悪も、感情をきちんと抑えながら記されている。それゆえ逆に、さざ波としか思えない表現であっても、そのとき水面下では、気持は大きくうねっていると見たほうがいいかもしれない。次のような一節も、そのひとつと言えるだろう。「夜ダンスデッキにて元子さんと人生観等について意見を話す。此頃の女学校を出た若い婦人は兎も角も人生に対し相当の意見を持つて居るのは感心だ。リファインと向上の努力の必要を語る」(昭和4年5月31日)*商工省大臣官房文書課長だった木戸は、博物館視察のために欧州出張を命じられ、4月25日に榛名丸で神戸を発っていた。上海、香港、シンガポールと ………

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