競馬ミステリー長編を42作 ディック・フランシス氏

一に騎手、二に作家

2010年4月号 連載 [ひとつの人生]

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人生を変える瞬間というものがある。ディック・フランシスにとってそれは、1956年の春に訪れた。場所はリヴァプール郊外のエイントリー競馬場。舞台は世界最高の障害レース、伝説と逸話に彩られた伝統のグランドナショナル。フランシスの騎乗するデヴンロックは、7千メートルを走り、30の障害を跳び終えたとき、後続には大差をつけ先頭に立っていた。ゴールまでは50メートル。世界中の障害騎手の夢がもうすぐ現実のものとなるはずだった。そのときである、馬が虚空に向かって跳んだのは。しかし、跳んだのは前肢だけで、次の瞬間、後肢を引きずるように腹部から着地する。映像を見ると、まるで腹ばいになるような着地だった。馬はすぐに立ち上がるが走ろうとはせず、夢ははかなくも消えてしまう。オーナーであったクイーンマザーは、騎手のお詫びに対し「これが競馬というものでしょうね」と答える。原 ………

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