生涯の友情に秘めた絵心
2010年3月号 連載 [日記逍遥 第14回]
最初の出会いは第一次世界大戦勃発直後だった。ロンドンのソーホーにあった日本人の経営する食堂「みやこ」で、若き外交官は、師父友枝高彦からお目にかかるように言われました、と名高い画家に語りかける。画家は、画伯とか先生と呼ばれるのは嫌いだ、そのかわり君が大臣宰相になっても閣下とは呼ばないよ、と応じ、27歳の外交官と44歳の画家との不思議な付き合いは始まる。若き外交官とは重光葵(まもる)であった。レストランに入るとシェフをスケッチしてしまうほど絵心に溢れていたが、それとともに「非常な勉強家で、その勉強ぶりはたいしたものだつた」と画家は回想している。名高い画家とは牧野義雄であった。単身アメリカに渡り、次いでイギリスへ転じ、貧困のなかでも絵を描き続け、明治40年に画文集『カラー・オブ・ロンドン』で一躍有名となる。ロンドンの霧をこれほど美しく描いた画家はな ………
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