水上勉「底辺」からの視線

2009年10月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第42回]

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高校生のころからずっと水上勉という作家の存在が、心のどこかに引っかかっていた。膨大な作品群のうち、読んでいるのはせいぜい20作品もあるかどうか。それでも水上勉を齢60を超える今日まで折にふれて意識していた。初めに作品を読んだのは最初の著書『フライパンの歌』だったか『五番町夕霧楼』だったか。『夕霧楼』は小説を読んでから映画を見たのかそれとも逆だったか、相当な影響を受けたことは間違いない。*金閣寺と思われる寺に火を放つ吃音の若い僧侶に思いを寄せる夕霧楼の娼妓片桐夕子。結核で病の床に伏す夕子は自殺した同郷の僧侶のあとを追ってふるさとで死ぬ。子供のころ遊んだ百日紅の老木の根元で夕子は息絶えていた。これ以上に哀しい小説はそうはあるものでない。濃いピンク色の百日紅を夏の終わりに見るたびに、私は夕子を思う。『フライパンの歌』は水上勉の戦後の貧しい時代の私 ………

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