天才歌手の「讃仰と忘却の歴史」

『ひばり伝 蒼穹流謫』

2009年9月号 連載 [BOOK Review]

  • はてなブックマークに追加

敗戦翌年の1946年、9歳の美空ひばりは横浜の劇場で初舞台を踏んだ。当時3歳の当方が小学校にあがる頃には、ひばりは既に大スターだった。一方、ひばりより2歳年下の著者は、満州から引き揚げ、日本海の島で少年期を過ごした。その少年にとって、時折見聞きしたひばりの歌や映画は、孤島の灰褐色の日々に差し込む一条の光だったという。戦争を境にしたあの時期のわずかな年齢差は大きい。ひばりを受け止めるには幼すぎた当方は、ひばりの歌や映画に接しながら、やがてロカビリーやシャンソンに耳を傾け、ひばりから離れていく。著者は「美空ひばりの歌は人生の伴奏歌であった。ひばりとは、遠く去りゆく子どもの時間の謂であった」「私たちの〈戦後〉は、ひばりの歌と共生していた。何を不服を言うことがあろうか」と、ひばりと行を共にする。遺書は書かずともひばりについては書きたいと、40年近く資料 ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。