気ままな音楽散策者
2009年8月号 連載 [ひとつの人生]
黒田恭一さんの音楽に対する柔軟な姿勢をしのぶたびに、まだ占領軍のいる敗戦後の街で見たアメリカ映画を思い出す。「クラシック」も「ジャズ」も、同等な「音楽」として扱っていた、あのナイーブな音楽映画を。黒田さんは、型破りなクラシック音楽評論家であった。音楽評論家になるのに近道はない。音楽という時間の芸術を対象とするなら、取り組んだ時間が、繰り返し聴くという付け焼き刃をゆるさない作業の蓄積が物をいうからだ。早いスタートだった。学生時代から、レコード、演奏会に接して批評を書き始めた。大学を出て就職したが2カ月でやめ、評論活動に専心する。音楽やレコードの専門誌などには必ずその名前が見られるようになった。なかでも、オペラに対する造詣の深さには定評があった。その一方で、すでに高校生のときから、たとえば日比谷公会堂でベートーヴェンを聴く前日、日劇でJATP(J ………
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