2009年5月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第37回]
とうとう、というべきかついに、というべきか、石川啄木を取り上げるところまできた。啄木と太宰治は青春時代にだれでもかぶれるいわば麻疹のようなもので、真正面から取り組むにはどこか気恥ずかしい。そう思っていたが、さまざま読み返してみると、やはり、昔の印象とはかなり異なった啄木像が見えてきた。函館の青柳町こそかなしけれ友の恋歌矢ぐるまの花私の卒業した小学校は津軽だった。6年の修学旅行は青函連絡船に乗って函館へ行った。そのとき知ったのがこの短歌である。それ以来、啄木は常に私の体内のどこかにいる。東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ老人と呼ばれる年代にさしかかったいま、啄木の短歌に対する好き嫌いが変化してきた。ここにあげた三つの短歌は、作り物のように見事にできていて、啄木の薄命の人 ………
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