抑留の憤怒と狷介
2009年3月号 連載 [ひとつの人生]
内村剛介が、スタアリン専制下のソ連の監獄に十年間抑留されて、やうやく帰国したのが、一九五六年である。それから四年経つた頃、一夕、吉本隆明宅で、内村剛介から話を聞く機会を得た。十代のをはりの青春期に、心を動かされたゴオゴリ、ドストエフスキイ、トルストイのロシア文学、あれらの文学を生んだ精神風土はどこへ消え去つてしまつたのか。今のソ連とロシアはまつたく別の世界なのか。歴史が、たつた一回の革命が、精神風土のそんな急激な変化をもたらすものなのか。さういふ疑問に答へてくれさうな者は、戦後のソ連文学の研究者や翻訳者にゐさうもなかつた。しかし内村剛介は、その疑問に的確に答へてくれた。それは驚くべきことであつた。明治文明開化以来、多くの洋行帰りがもたらした海外見聞談とは次元を異にする洞察であつた。体験の質がちがふのである。何でもみてやらう風の経験が逆立 ………
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