編集後記

2009年2月号 連載

  • はてなブックマークに追加

心電図に妙な波形が現れるので、水道橋のクリニックに通っている。優に3階分はある高架駅のホームに降り立つたびに思い出す。終戦の翌年、泥酔した批評家の小林秀雄が、ここの鉄柵の間から地面に転落したそうだ。抱えていた一升瓶は粉々になったが、落ちたのが幸い石炭殻の山。奇跡的に無傷で済んだらしい。▼未完の長編『感想』冒頭のエピソードである。ベルクソンを論じながら相対性理論に挑んで尻尾を巻き、封印した失敗作だ。改めて読んで、この人、微積分が全然分からず、力みかえっているうちに、くたびれたのだと知った。ベルクソン十八番の「ゼノンのパラドクス」を下敷きにしているが、文章そのものが堂々めぐりの祖述に陥り、亀に永遠に追いつけないアキレスになってしまう。▼数学者を嘱望されながら哲学に転じたベルクソンは、さすがに「ゼノンの運動否定は、動体の描く軌道や曲線と運動その ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。