2008年8月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第28回]
作家でだれが一番好きか、と問われて、ふと「そりゃあ、コミさんでしょう」と答えてしまったことがある。好きな作家はほかにもたくさんいるのだが、だれが一番か、と尋ねられると一度ならず田中小実昌と反射的に言ってしまうのである。この名を知っている人はどのぐらいいるだろう。コミさんには悪いが、知らないと恥ずかしい、という人ではない。知っているほうが恥ずかしいぐらいかもしれない。田中小実昌とは何者か。気がついたら、コミさんの小説やらエッセイやらをずいぶん読んでいた。この人の本は、読んで教養が高まったり、知識が増えたり、生き方が参考になったり、というような「読書のすすめ」キャンペーンに出てくるようなものではない。何のために読むのか、とか何が面白くて読むのか、と問われても、読みたいから読む、としか言いようがない。気がついたら、コミさんはあの世へ旅立ってい ………
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