編集後記

2008年4月号 連載

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茫と烟っていた。南新宿の高みから遠望した東京の空。眼下の御苑の濃い緑に、綿毛のように浮かぶ白と薄紅は、梅の花だろうか。病癒えて退院する日、足慣らししようと、コートの襟を立て、マフラーを巻き、マスクまでして歩きだしたが、あまりの陽気に阿呆らしくなった。眩しさに目を細めるモグラのように、行き交う人の群れをぼんやり眺める。▼少し休もう。2世紀前のドイツの詩人ヘルダーリンが発狂した後の偶成に「春」という詩がある。ひとつの家が空高く築かれて輝くとき/野は人のなかにひろがり/道は遠く走って/あたりを眺めやる者がひとりいる……アポロの霹靂に打たれたような往時の緊迫はない。すでに彼は天才の抜け殻でしかなかったが、この素人のように平易で澄明な言葉は、無残なだけに切なくて忘れ難い。▼亡くなった川村二郎氏(50ページ「ひとつの人生」参照)の訳詩集は、ヘルダーリン後 ………

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