忍び寄る死と「瘋癲老人」の道行き

映画『ヴィーナス』

2008年1月号 連載 [IMAGE Review]

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ピーター・オトゥールには、2度死に方を教わったことになる。最初はデビッド・リーン監督の大作『アラビアのロレンス』で。冒頭、オートバイを疾走させ、宙に舞ってあっけなく迎える死。挫折した英雄の沈黙がそこにあった。第二はこの作品で。もう死体役しかお呼びがかからなくなった老残の俳優が、音もなく忍び寄る死と戯れ、回春に微かな望みをつなぐ日常を教えてくれた。その2作品の間に44年が流れた。舞台で鍛えた演技力でカメレオンのように何でもこなし、オードリー・ヘプバーンとのコメディーや『チップス先生さようなら』などで新境地を開いたが、1972年の『ラ・マンチャの男』以降、出演が減るのは、深酒が嵩じてアル中に陥ったからだという。75年に胃ガンに見舞われ、手術してカムバックを果たしたが、美丈夫の面影は失われた。75歳の今は痩せ細り、目尻の皺は深く、頭髪も薄くて、ありふれた ………

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