「金子文子」という人生

2007年12月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第20回]

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月に2回ほど高田馬場から早稲田まで歩いて、通りに点在する古書店をのぞく。探したい本はなかなか見つからないが、ときに思わぬ本に出会うこともある。目的の本を探すだけならネットショッピングで済む。わざわざ一軒ずつのぞくことが楽しみなのだ。『金子文子歌集』(黒色戦線社)。60ページに満たない薄い冊子である。金子? 文子? もしやあの朴烈事件の? と高鳴る胸を落ち着かせながら手に取った。ぎっしり詰まった書棚の中で薄っぺらな背表紙の消え入りそうな「金子文子歌集」の文字は、かえって存在感があるように思えた。いまの時代にほとんど忘れられている金子文子にもう一度光をあてることが、もしかしたら「硯の海」と題するこのコラムの宿命なのかもしれないとそのとき感じた。どういう人物なのか、さえ書くのが難しい。時代も今とはすべてが違う。でも、こういう女性がいたこと、そし ………

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