陰影宿す美丈夫
2007年11月号 連載 [ひとつの人生]
ダブルのスーツでいつもパイプを手放さないダンディな石川忠雄は、晩年にいたるまで美丈夫だった。国の審議会など会合に車椅子で臨んで快活に話す姿に、多くの人が不如意や屈折のない「慶応ボーイ」の典型的な人生を重ねて見たに違いない。そんな想像に反して、東京・神田の鳶職人の家庭に生まれた石川は父親の経済的な困窮で苦学を余儀なくされ、そのうえ学徒出陣で戦闘機乗りとなって「特攻」への出陣の間際に終戦を迎えている。挫折と試練と散華の運命が重なる青春であった。町火消しも務める父と健気な母はそれでも、不運や時代の波を恨むでもなく子供たちへ精一杯の愛情を注ぎ続けた。こだわりのない律儀な江戸気質の職人の家庭を、石川は後年になってからしばしば懐かしそうに振り返ったものである。入学した中学の学資が続かず「昼間は自分で働いて夜間学校へ」と選んだのが慶応義塾商業学校。苦 ………
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