2007年10月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第18回]
地球が丸いということが実感できるほど、目の前に百八十度広がる海。初夏の空は透き通った明るい青のキャンバス、に生まれて間もない幼い入道雲を配している。点々と見える島々。ああ、ここへ来たかったのだ、とこみ上げるものがあった。長崎県の西端の角力灘を見下ろす崖っぷちに「沈黙の碑」はあった。「人間がこんなに哀しいのに 主よ 海があまりに碧いのです」と小説『沈黙』の作者遠藤周作の字で彫られている。海を見つめていて涙が出たのは初めてだった。碑に刻んだ遠藤の言葉が魂を揺する。外海(そとめ)地区東出津町。山側に出津教会、少し南側に黒崎教会、いずれもフランスからきたカトリックの宣教師ド・ロ神父の努力で明治15年(出津)、同30年(黒崎の敷地造成)にできた。この外海地区は隠れキリシタンで知られ、黒崎教会は『沈黙』のモデルといわれている。小説の中で「トモギ村」とし ………
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