軍歌にすすり泣いた男
2007年5月号 連載 [ひとつの人生]
背筋を伸ばした晩年のその姿に、失われゆく戦後の日本の「志」を重ねて見た人は多い。「戦争体験を書き残したい一心で作家になった」。城山三郎はそう語っていた。組織と国家に引き裂かれる個人を世代的な視点から描いた作品は少なくないが、この作家は高度成長期の熱気とビジネス社会のモラルに、それを振り向けて問いかけた。文芸の役割の一つが読者への慰めと希望を与えることならば、「経済小説」という未踏の分野を切り開き、組織に生きる人々を鼓舞した作品の重みはもっと評価されていい。城山が1957年に文学界新人賞を受賞し、作家としてのデビューを飾った『輸出』はいま読み返されることが少ない。地味な短編小説であるが、後の代表作になる『毎日が日曜日』の序章でもあり、「企業戦士」の内部に息づく「私」を通して、個人と組織の葛藤という通奏低音がすでに聞こえる。ロサンゼルスに駐在す ………
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