人しれず微笑まん

2007年5月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第13回]

  • はてなブックマークに追加

いつもよりも早く染井吉野のつぼみがほころび始めた彼岸のころ、東京の多磨霊園を歩いた。その人の墓にいつかは行ってみたいものだと長い間、思い続けてきた。その人、樺(かんば)美智子。この名前に懐かしさを覚える人は、もう還暦を過ぎているはずだ。1960年6月15日、いわゆる「60年安保」の国会デモで警官隊と衝突し死んだ東大生である。都立高校の1年生だった私もこの日、国会周辺のデモの輪の中にいた。ただ、樺さんという学生が亡くなったことは翌朝の新聞で知った。高校に入り、急に大人になったような気分で、政治に関心を持ち始めたばかりだった。生徒会活動の傍ら、上級生に誘われてデモに加わった。少年から青年に変わろうとするこの時期に、私に衝撃を与えたのは、樺さんの遺稿集『人しれず微笑まん』であった。何度も読み返した。表紙の絵まで記憶しているこの本を、ネットで再び手に入れ ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。