編集後記

2007年3月号 連載 [編集後記]

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 フランツ・カフカの夢日記に、ドミニク・アングルの絵の夢を見た記述がある。彼の寓話と同じく一読忘れ難い。それは何千という鏡に映った森の少女たちの絵だった。「ところで彼女たちは見るものに相対してばかりでなく、背を向けても姿を映していた。そして次第に不明瞭に、幾重にもなっていった。(中略)しかし前景には、鏡の反射に影響を受けないひとりの裸の少女が、片足立ちで腰から一歩踏み出そうとして立っていた」。▼「横たわるオダリスク」や「泉」の裸婦像のアングルが、実際にそんな絵を描いたかどうかは知らない。が、「鏡の森」に乱反射して無数に増幅する少女像のなかで、たったひとり生身の肉体が立つというイメージは、カフカが知らなかったインターネットの仮想空間を思わせる。言葉も映像も次々とコピーされ、写像の写像が音もなく増殖していく。誰もが「鏡の森」で迷子になり、主 ………

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