漢字学者 白川 静氏

「サイ」に入れた手紙

2007年1月号 連載 [ひとつの人生]

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「白川静」は、やさしい。「こんなやさしいのは居らんぞ」 と、自ら言うところがまたいい。ユーモアたっぷり。人を喜ばせることが実に上手だ。雑談の中でも気の利いたジョーク満載だが、学問の話をしていても同じ。「あのね、先生、“戻” るという字。あれ、戸垂の中は犬ですよね」「そうや。犬やないと、もどれん」 犬はちょっとかわいそう。嗅覚が鋭い。その能力が犬を犠牲獣とする。墓に入れる器物は犬の血でキヨめられる。その「器」の中にも、犬(今は「大」だが)がいる。犬自体も殺されて置かれる。魔除けだ。犬のおかげで私たちは迷子にならずに、元の場所にもどれる。 白川静の学問は、漢字学に留まるものではない。根底に民俗学や神話学、何よりも哲学がある。「先生、毎日毎日、書斎に閉じ籠もって寂しくない? 先生は孤独にならないの?」「孤独は“一人あることの楽しさ”ではないか」  ………

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