阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

  • 2006年12月28日もういちど「ソニー病」5――フェリカと紀香

    「夕刊フジ」の編集者は不思議な感覚を持っているらしい。「フェリカ」と「紀香」という奇妙な韻(駄洒落?)を踏んだ紙面には仰天した。

    12月27日(木)発売の同紙AB統合版のアタマでは、黒べた白ぬきの「電子マネー 極秘情報流出」という大きな見出しが躍っている。この「電子マネー」とは、FACTA最新号が「暗号が破られた」と報じた非接触型IC技術「フェリカ」のことである。書いてあることの大筋は、弊誌の記事とこのブログの後追いと思える。

    目鯨をたててもしようがないが、このフェリカのニュースとからみあうように、前夜婚約会見をした藤原紀香の大きく胸のあいたドレス姿の写真が載っているのはなぜか。アイキャッチにしても「東スポ」的なシュールな組み合わせである。思わず笑ってしまった。立場は違うが、ソニーの方々もさぞかしぎょっとしたろう。

  • 2006年12月22日もういちど「ソニー病」4――屁のつっぱり

    弱った魚は目で分かる。ソニーは非接触型ICカード「フェリカ(FeliCa)」のセキュリティについて、コメントを発表した。

    感想の1/なんだか弱々しい否定である。弊誌はもちろん掲載前にソニーに取材し、彼らの言い分も載せている。だからなのか、わが社には何の反論も来ていない。

    感想の2/このコメントは日経プレスリリースで読めるが、ソニーグループのサイトの「プレスリリース」の項ではなぜか見当たらない。新聞社用で、他には見せたくないコメントなのでしょうか。ここらも何だか姑息。

  • 2006年12月21日もういちど「ソニー病」3――太鼓もちメディア

    ITMediaはソニーの太鼓もちかね。

    12月20日20時28分配信の「Felicaの暗号が破られた?――ソニーは完全否定」という記事を書いた記者は、ソニーの言い分を鵜呑みにしただけである。

    当方には電話で数分聞くだけの手抜きで、それでもって記事をすぐ書いてしまう厚顔無恥が信じられない。メディアがメディアに取材して、「本当ですか?」とか、「ソニーは否定していますが」とか聞いてどうするのかね。愚問である。こういうのを御用聞き記者という。魂胆が透けて見えるから、こちらも手の内は明かさない。それだけのことだ。

  • 2006年12月20日もういちど「ソニー病」2――自覚なきデファクト

  • 2006年12月18日もういちど「ソニー病」1――1年たってもビョーキ

    このブログ「最後から2番目の真実」がスタートからもう1年たった。

    忘れもしない。05年12月、ソニーのウォークマン「Aシリーズ」のお粗末と、ソニーBMGのCDスパイウェア事件から始まったのだ。爆発的なアクセス数で、サーバーの容量を超過、数日で落ちかけるという事態になり、正直、背筋が寒くなった。

    別にソニー専門ブログをめざしたわけではなかったのだが、1カ月ほどはその続報で次々と埋めていった。でも、自分でやってみてブログという負荷がかえって自分を縛ることに気づいた。ソニー批判専門と見られては困るので、かえってソニーを扱いにくくなったのである。

  • 2006年7月 7日ソニー19――人種差別広告

    久しぶりにソニーの話題。というより、もう編集作業が始まっているから静かにしておいてほしいのに、勝手に欧州できわどい広告をのっけてお騒がせをやっているから、困ってしまう。人種差別に敏感な人々を刺激して、欧米のネットは大騒ぎになってしまった。

    ま、とにかくご覧あれ。写真のように、白いセラミック製のプレイステーション・ポータブルのビルボードに、グラマラスな白衣のヘソだし白人女と、顎をつかまれた黒人女性を登場させて、「PSP、白が来る」とやったのだ。オランダでの話である。

    この白人女性の顔、コワソー

  • 2006年1月22日ソニーの「沈黙」18――携帯オーディオ開発出直し

    コニカミノルタからデジタル一眼レフカメラ事業部門を買収するという派手なニュースの陰に隠れてだが、ソニーが1月20日、ウォークマンAシリーズの音楽配信ソフトなどでトラブル続きだった開発組織「コネクトカンパニー」の機構改革と人事を発表した。このブログで昨年来指摘してきた携帯オーディオの開発立ち遅れを認め、体制立て直しに踏み切ったと見たい。ソニーにも「聞く耳」はあったと考えよう。

    コネクトカンパニーは、ウォークマン復活を狙って日米にまたがる特命部門として04年11月に設立され、05年11月にAシリーズを発売したが、ソフトの欠陥(バグ)が相次いでライバル「iPod」追撃を果たせていない。

  • 2006年1月11日ソニーの「沈黙」17――「ピラニアの沼」を逃れて

    昔、「世界残酷物語」などと題したゲテモノ映画を得意とするグアルティエロ・ヤコペッティという監督がいた。ピラニアの棲息する沼に牛が落ちて、群がる食肉魚に血だるまにされ、やがて骨と化すシーンを売り物にしていた。怖いものみたさに見に行ったが、なんだか嘘っぽいと思った記憶がある。あとで暴露されたが、やっぱりヤラセだったそうだ。予め出血させた牛を沼に追いこみ、血の匂いでピラニアを集めたというから、ドキュメンタリーを標榜しながら本末転倒である。

    その映像を思いだしたのは、音楽CDの「スパイウエア」問題ですっかり悪役に変じたソニーBMGに、あれよあれよというまに集団訴訟のピラニアが群がっていたことである。

  • 2006年1月10日ソニーの「沈黙」16――「臭いものにフタ」の予備的和解

    1月10日は黄禹錫(ファン・ウソク)問題の最終結論をソウル大学調査委員会が発表することになっているから、「ネット愛国主義の胚5」を載せようと思っていたが、予定を変更せざるをえない。しばし、ソニーに逆戻りである。

    正月明け早々、音楽CDのスパイウエア問題で動きがあったからだ。ソニーBMGが集団訴訟の和解にこぎつけた、とのフラッシュニュースが流れた。やれやれ、容赦ないね。松の内くらいゆっくりさせてもらえないものか。それほど律儀なソニー・ウォッチャーではなく、毎日、ネットをチェックしているわけじゃないんだから。

  • 2005年12月31日ソニーの「沈黙」15――カイロに聞いてみた

    カイロに電話した。サウジアラビアの富豪アル・ワリード王子が日経のカイロ支局長に語った「(現在投資を検討している企業は)世界で5、6社ある。一つはソニーだ」という発言が、どうしても気になったからだ。

    王子にインタビューした支局長のK記者とは、ジャカルタで会ったことがある。彼が駐在員で、こちらは東京から出張した。むうっとする熱帯の温気(うんき)、アセチレンの揺れる屋台の人影、そしてスコールの雨。ああ、これぞアジアと思った記憶がある。それからずいぶん歳月がたった。だしぬけの電話なので、探りを入れる声になる。

  • 2005年12月30日ソニーの「沈黙」14――新会長のつまずきは「蜜の味」

    12月29日朝の御茶ノ水は森閑としている。澄んだ蒼穹。当方は来年の創刊を控えて、のんびり正月休みをとる身分ではないので、週末まで出社するつもりだが、たいがいのオフィスはきのうで御用納めだったろう。私個人は、手嶋龍一前NHKワシントン支局長を通じて知り合った若い人たちを前に、新雑誌がめざすジャーナリズムを語る会に出た。寒風の夜の巷はほろ酔いの人が多く、「歓喜の歌」を空耳で聞いた気がした。

    「歓喜よ、美しき神々の閃光よ(Freude, Schöner Götterfunken)」

  • 2005年12月29日ソニーの「沈黙」13――コンスピラシー・セオリーの温床

    1997年に公開された映画「コンスピラシー・セオリー」(邦題「陰謀のセオリー」)は、メル・ギブソン演じるちょっとオツムの弱いタクシー運転手が、陰謀史観にとりつかれて客にのべつ吹聴し、その強迫観念にあわせて自宅のアパートも要塞のように改造してしまった場面から始まる。脳裏をよぎる三本の煙突の執拗なフラッシュバック。そしてジュリア・ロバーツ演じるヒロインをやみくもに守ろうとする行動。運転手は憑かれたように語る陰謀史観以外に何も覚えていない。

    映画はその頓狂な非現実がしだいに現実に化していく恐怖を描くのだが、ほんとうはこの運転手の妄想が完成して外に出られなくなり、妄想どおりに秘密機関の追跡と恋人の救済という願望に閉じこもってしまったかと思える。

  • 2005年12月28日ソニーの「沈黙」12――「リヤドの助っ人」の不自然な発言

    12月22日付の日経朝刊国際面に載ったサウジアラビアの富豪アル・ワリード王子のインタビューについて、続きを書こう。

    ひとつ、私的なエピソードを紹介しよう。私のロンドン駐在時代(1995~98年)に、カイロ支局の記者から興奮した電話がかかってきた。アル・ワリード王子と電話でしゃべったという。当時、サウジはビジネス目的なら入国できても、ジャーナリストはご法度という「鎖国」状態で、リヤドは外国人記者にとって砂漠の彼方の「幻の都」だった。商社マンが自在に出入りしているのを指をくわえてみているほかない。

    「そいつはすごい!」と私はうなった。「で、何か聞けたの」

  • 2005年12月27日ソニーの「沈黙」11――不可解な株価と最後の「びっくり箱」

    1992年12月、あなたは何をしていた? 小学校の週休二日制が始まった年である。

    英国王室はてんやわんやだった。この年、故ダイアナ妃とチャールズ皇太子の不仲のスキャンダルが火を噴き、ウィンザー城が火災に見舞われたのだ。エリザベス女王は恒例のクリスマス演説でAnnus Horribris(アヌス・ホリブリス、身の毛がよだつ一年)と回顧してみせた。ロンドン大火のあった1666年がAnnus Mirabilis(アヌス・ミラビリス、驚異の年)と呼ばれるのにひっかけた、いかにも英国らしいジョークである。

    かの国の王室は負け惜しみでもこういう機知を飛ばす。さて、2005年はソニーにとって「ホリブリス」の1年だったのか、「ミラビリス」の1年だったのか、ぜひとも英国人のストリンガー会長から、思い切りジョークのきいた負け惜しみを聞いてみたいところである。

  • 2005年12月24日ソニーの「沈黙」10――同じ愚を繰り返した「メディアマックス」

    昨夜は忘年会のピークだったのか、都内の道路はどこも大混雑。切込隊長との飲み会に遅刻した。ほろ酔いで帰ったら、オフィスのセコムが誤作動したらしく、警備員が駆けつける始末。大家さんを叩き起こしてシャッターを開ける騒ぎになって、電話で平謝り。

    風邪にお見舞いのメールをいただいた。「これ、笑えます」とあって、「Engadget」なるサイトの記事を紹介してもらった。なるほど、笑えます。

    英国ソニーが発売するカーオーディオ用の新MP3プレーヤー「ギガパネル」の話。使い勝手が悪いいうえにどうみても欠陥品だったウォークマンAシリーズの楽曲転送ソフト「コネクト・プレーヤー」があっさりと採用されず、ドラッグ&ドロップで直接パソコンから転送できるそうだ。ははあ、日本でのクレームを聞いて、こりゃあかんと思ったんでしょうね。やればできるじゃん! でも、トホホなのは、英国ってストリンガー会長の母国。身内に見限られた「コネクト・プレーヤー」も浮かばれない……。

  • 2005年12月23日ソニーの「沈黙」9――中身のない「門前払い」回答

    このブログの初回(12月10日)で掲げたように、ソニーに対しては11月29日に質問状を送った。音楽CDに搭載されたコピー制限プログラムの問題について、日本のソニー広報センター コーポレート広報部名義の回答を得たのは12月2日である。

    拝啓

     寒冷の候、益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。また、平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
     大変遅くなりましたがソニーBMGの音楽CDに関して先日頂戴したご依頼内容につき回答させて頂きます。弊社法務担当者へのご取材につきましては、社内で検討致しました結果として、現在、ソニーBMGとして係争中の案件であり、取材は辞退させて頂きたく、ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。誠に申し訳ございません。本件に関していただいておりましたご質問事項に関しては、以下の通り回答させていただきます。
     ご査収のほど、宜しくお願い致します。

    敬具

    以下、こちらの個別の質問についてQ&A形式で応えていくのだが、まず上記の文面にどんな印象を得ただろうか。「係争中の案件で法務担当者の取材には応じられない」という回答を、私は取材拒否、門前払いと受け取った。フィンランドのブログの告発から1カ月も経ちながら、顧客のパソコンの機能を損じるとまで言われ、テキサス州の州検察にスパイウエア禁止の州法違反で訴えられた問題に、なおダンマリとはあきれるほかない。

  • 2005年12月22日ソニーの「沈黙」8――「E.T.」の目で眺めた惑星“汚染”

    忘年会の連チャンで風邪を完治する暇がない。「髪に寝癖が」と言われるから、よほどヨレヨレなのだろう。いつのまにか風邪っ気を忘れた。そろそろソニーの話に戻ろう。

    きょうはブロガーの怖いユーモアについて。11月15日、シアトル在住のフリーのセキュリティ専門家ダン・カミンスキー氏が、「ウェルカム・トゥ・ソニー・プラネット」(いらっしゃい惑星ソニー)と題したブログを掲載した。これは笑える。冒頭を翻訳すると、

  • 2005年12月19日ソニーの「沈黙」7――ツギハギに追われる蟻地獄

    ワシントン・ポストの論調が、ソニーBMG製音楽CDのコピー制限プログラム(XCP)問題の帰趨を決めたといっていい。悪意はなかったと弁明しながらも、ソニーBMGの下請けであるソフト開発会社F4I(ファースト4インターネット)が、XCPの「覆面」機能を外すパッチ(修正プログラム)を無料配布しはじめたのは、「パソコン内にもぐりこみ、検知されないよう“雲隠れ”するなんて、一流企業にあるまじきハッカーの手口ではないか」と指摘されたのが利いたのだろう。

    が、これがイタチゴッコの悪循環の幕開けになる。CDに仕込まれた「スパイウエア」を最初に暴いたフィンランドのセキュリティ専門家、マーク・ルシノビッチ氏が、11月4日に早くもこのパッチに噛みついた。またプリンストン大学コンピューター科の教授も、ブログでその脆弱性を指摘したのである。

    このパッチを入手する際、ユーザーがオンラインでフォームを送り、パソコンを修正可能な状態にするプログラムをダウンロードする仕組みだが、このときに「ソニーBMGやF4I以外に、ユーザーがアクセスした全ウェブサイトが、何でも好きなコードを送ってパソコンを乗っ取れるようになってしまう」。パッチ自体の出来も悪く、作動させるとパソコンがクラッシュ(機能停止)する可能性さえあるという。

  • 2005年12月17日ソニーの「沈黙」6――さすが早耳、ワシントン・ポスト紙

    念のために一言。前回書いたルシノビッチ氏のソニー音楽CDを告発するブログの内容は、邦訳文を転載したものではない。読み比べれば分かると思うが、セキュリティ専門家である彼がどんなツールを使ってスパイを突き止めたかには触れていない。それは彼独自の専門知識とノウハウに属する。ただ、彼がこのスパイウエア開発者に感じた怒りとアイロニー、その仮面をはぐ執念に的を絞った。それは、なぜこのブログがかくも共感を呼び、あっというまに世界で轟々たるソニー批判が噴出したかを実証しているからだ。

    アメリカではこうしたスクープに敏感に反応する層がネット空間に存在する。日本でブログといえば私的日記の色合いが濃く、そこで飛び交うのはどこかの情報の孫引き……「2ちゃんねる」語でいう「コピペ」とリンクで循環しているにすぎない。海外では、ルシノビッチ氏のブログのようなプロが、単なるコメントだけでなく、「金無垢のファクツ(事実)」を提供するニュース系ブログが盛んである。新聞や雑誌など既存の商業メディアは、往々にしてそれを拾ってニュースに仕立てるのだ。

    ルシノビッチ氏のブログ掲載の2日後、11月2日付のワシントン・ポスト紙がこの騒ぎを大きく報じたのがいい例だろう。私の管見する限り、有力紙ではこれがもっとも早い。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件の調査報道で有名な同紙は、そのヒーローであるボブ・ウッドワード編集局次長が「権力の番犬化」ですっかり評判を落としているが、さすがに早耳の伝統だけはいまも継承しているらしい。

    この記事によって、ソニーBMGのスキャンダルはネット空間の外に広がった。最近、ワシントンから来た人に聞いたら「ああ、あの記事ね」と記憶していたから、紙媒体の読者にも衝撃を与えたのである。書き出しはこうだった。

  • 2005年12月16日ソニーの「沈黙」5――暴かれた“密告”プログラム

    ソニーBMGの音楽CDに仕込まれたウイルス性の「マル(悪質)ウエア」を暴いた、フィンランドのマーク・ルシノビッチ氏のブログは、それ自体が潜入した敵工作員を摘発するスパイ小説のようにスリリングである。

    ルシノビッチ氏はコンピューターへの不正侵入をガードするセキュリティの専門家なのだ。ハッカー(クラッカー)の多くは、不正侵入を検知されないようログを改竄したり、裏口を設けてそこから出入りするなどの手口だが、そのための一連のソフトをまとめた「ルートキット」(rootkit)と呼ばれるパッケージがあって、ウインドウズなどの基本ソフト(OS)の中核部分であるカーネルに忍びこむから始末が悪い。ルシノビッチ氏はこの「ルートキット」に詳しく、力作リポートも書いている。

    ところが、灯台もと暗し。ルートキット検知ソフトを自分のマシンで試してみたら、なんと「陽性」と出たのだ。おかしい。ふだんからスパイウエアやウイルスを拾わないよう、不審なウェブサイトには近づかず、用心してきたはずなのに、なんとしたことか。「元カレの元カノジョの元カレ……」と果てしなく続くエイズ防止の政府広告があるが、身元の知れた相手と付き合ってきたのにエイズ検査で「陽性」と出たようなもので、ルシノビッチ氏は一瞬バグかと思ったし、疑心暗鬼にも駆られたのである。

  • 2005年12月15日ソニーの「沈黙」4――音楽CDの“無間地獄”

    いつまでも道草をしていると、変に勘ぐられるので、そろそろソニーの本論を再開しよう。発端から書くことにする。

    11月半ばの週末だった。場所は東京・飯倉のロシア大使館近くのライブハウス。ポルトガルの哀愁を帯びたファドの歌が流れる暗がりで、だしぬけに「知ってる?」と言われた。

    「ソニーの輸入盤音楽CDに“ウイルス”が仕込まれていて、パソコンが感染すると機能不全になるんだって。シリコンバレーは騒然としていて、ソニーが憎まれっ子になっているのに、どうして日本では報じられないんですかあ」

    相手は国立系研究機関につとめる通信の研究者で、同じライブを聴きにきていた知り合いだが、せっかく赤ワインと音楽で陶然としているのに無粋なヤツ、と思いながらも、単なる素人の聞きかじりではないので聞き流せなかった。

  • 2005年12月12日ソニーの「沈黙」3――血祭りになったヤラセ「体験日記」

    ウォークマンAシリーズの発売4日前に始まった「メカ音痴の女の子のウォークマン体験日記」は、近来まれに見る企業広報の壮大な失敗だった。ブログをつかった安手の世論操縦が、どれだけ痛烈なしっぺ返しを食うかを思い知るべきである。

    致命傷は写真だった。pinkyというブログの主人公が、届いたウォークマンを手にした写真をネットに公開したのである。いかにも素人っぽく撮ってあるが、ネット空間にはいくらでもプロがいる。影がふたつあることから、タングステンハロゲンランプとスタンドを使っていると見破られた。そんな重装備で撮影するなんて素人であるはずがない。

    このpinky嬢、自分の顔は見せない(一度、写真が載ったそうだが本物?)。それにしてはあざといことに、「早速音楽をダウンロードする予定が、自分のパソコンがmacだったことに気づき、撃沈。。。 windowsのパソコンを買って、やっとダウンロードしてみました」と書いた。ウォークマンを使うのに、パソコンを買い換えるなんて不自然。しかも、ウォークマンの不倶戴天の敵iPodのメーカーであるアップル製のMac パソコンをけなすにひとしい。ところが、写真の背景に映っているキーボードはウィンドウズのもので、それを指摘されて狼狽した。

    嘘は重ねるほどボロが出る。

  • 2005年12月11日ソニーの「沈黙」2――切込隊長の辛らつな「抑制」

    前回の続き。ソニーの尻尾をつかむために、取材で一歩一歩問い詰める第二編である。

    質問状で触れたウォークマンAシリーズの「コネクトプレーヤー」とは、パソコンに組み込む楽曲転送ソフト(iPodではiTunesにあたる)で、その不具合がAシリーズへの不満の中心だった。その改訂版提供の発表は質問状を送った11月29日に行われ(実施は12月2日)、ソニー自身が認めた「問題点」は以下のように10項目と多岐にわたる。

    • 再生中や録音中にコネクトプレーヤーで他の作業を行うと“不正な処理のエラー”が表示されたり、フリーズすることがある。
    • CD EXTRAを認識しない。
    • 大量の曲の転送を何度も実施した後に、コネクトプレーヤーのライブラリの曲が表示されないことがある。
    • コネクトプレーヤー上でウォークマンAシリーズ内の曲のメタデータを編集しても、ウォークマンAシリーズに反映されないことがある。
    • 約1000曲のチェックアウトを連続して行うと、転送が正常に完了しないことがある。
    • 「Gracenote CDDB(r)の登録」に失敗すると、その後登録ダイアログが表示されない事がある。
    • Windows2000環境で、曲にジャケット画像を登録するとコネクトプレーヤーが動作しなくなることがある。
    • コネクトプレーヤーでウォークマンAシリーズのフォーマット中に、アプリケーションエラーが発生することがある。
    • ライブラリで曲の並び順を変更後にほかの分離を表示すると、変更した並び順が反映されない。
    • その他の改善

    ボロボロじゃないの。これだけ多いと、やはり「欠陥商品」と言われてもしかたがないのではないか。ここから浮かび上がるのは、ソニー技術陣のソフト開発力がえらく低下していること、製品発売前の事前のチェックがおざなりなことである。ある関係者にいわせると「1000曲以上の転送ができない」なんて致命的なバグ(欠陥)は、チェック段階で数百曲の転送しかしなかったことを示すもので、ソニーのMP3の旧ソフト「ソニックステージ」で1万曲保存などザラという現状を自覚していなかったのではないかという。ソニー信者が怒り心頭に発したのも無理もない。

  • 2005年12月10日ソニーを包む「奇妙な沈黙」

    新雑誌「FACTA」で何をめざすのか。一例をあげよう。「2ちゃんねる」などネット掲示板ではソニーが袋叩きにあっている。携帯オーディオ市場で6割のシェアを奪ったアップルの「iPod」に対抗し、かつての王者ウォークマンが巻き返しの決め手として11月19日に発売したばかりの「Aシリーズ」に対する怨嗟の嵐が、ネットで吹き荒れた。

    不思議なことに新聞・雑誌はそれをほとんど報じない。広告主ソニーに気兼ねしているのかと疑われてもしかたがない。この奇妙な沈黙はまた、ソニー自身が演出しているのだろうか。苛立ってネットに殺到するクレームはほとんど一方的に「ソニー憎し」で、返品をあおるばかりだ。同情的な声があっても「おまえはGK(ゲートキーパーの略語、「仮面をかぶった回し者」の意味)か」と一刀両断である。

    ブログは怖い。ネットの“蛮人”たちは落ち目のブランドと見るや、ここぞとばかりに痛めつける。だが、なぜソニーに直あたりしないのだろう。「臭いものにフタ」式なら日光消毒になるし、意識的または無意識の世論操作装置と化している既存ジャーナリズムを破って風穴をあけられる。落書きみたいなソニーの悪口を掲示板に書きこむだけではあまりに悲しい。対象からのフィードバックを欠いたネットは、対人恐怖症の裏返しである。

    それなら、と思った。幸い、人に会って喜怒哀楽を引き出すのは苦にならない。どんなジャーナリズムも、取材と回答の往復運動から生まれる。それをネットで見せればいい。ソニーの「沈黙」を俎上にのせよう。だが、ウォークマンAシリーズやコピー制限機能付き音楽CDという、ソニーにとって致命傷と思える問題が続いたせいで他意はない。