阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

  • 2006年3月11日ウェブ進化論8――ライプニッツの予言

    いくら「出会いが不可能」だからといって、出会い系サイトを「聖なるグーグル」のたとえにつかうなんて……とお叱りを受けそうだ。梅田望夫氏の「ウェブ進化論」が、せっかく藤原正彦の「国家の品格」を抜く新書のベストセラーになりそうなのに、その勢いに水を差すけしからん冒瀆だと思われかねない。

    ネットの「あちら側」では「出会い系は出会えない」。その例証に「出会い系の冬ソナ」を書くことが奇抜すぎるというなら、今度はぐっと品よくいきましょう。かつて数学にあこがれた私にとって、それからずっと尊敬の的である微積分学の祖、ゴットフリート・W・ライプニッツ(1646~1716)の引用ならお許しいただけるだろうか。

  • 2006年3月10日ウェブ進化論7――出会い系の「冬ソナ」債鬼編

    創刊前の編集長が出会い系なぞにウツツを抜かしている、と誤解されそうだから書いておく。有料ポイントの金を払って、体当たりで出会い系サイトの実験をしてくれたのは、私の知人であって私ではない。編集長が隠れてそんな隠微なことをしていたら、いくらなんでも同志の宮嶋君や小島君、それに「ときどき代行」の和田さんたち女性スタッフが許してくれない。ネットの「あちら側」がいかにしてカネをまきあげるか、という実験です。

    さて、自称「美紀」さんとのデートは、直前に「大至急」のメールが入った。追加ポイント代3000円を払って、メールをのぞいてみると「今日でしたっけ?」とおとぼけ。ああ、まただまされた! 君のような人とお会いしようと言うのが間違いだったんだ、とホゾをかむ。けれど、「じゃぁ、バイバイ!」と書こうものなら「規約」違反になる。「相手の女性の自尊心を著しく傷つけた場合は制裁ポイント500!」。こういうところだけハラスメントには厳しい。トホホである。

  • 2006年3月 9日ウェブ進化論6――出会い系の「冬ソナ」入門編

    グーグル幻想の「毒消し」のために、ネットの「あちら側」にご案内する。この世界のからくりを知らない人のために、ちょっと説明しよう。まず無料サイトと呼ばれる表のサイトに携帯で登録する。たとえば「誘惑の人妻」とか何とかのドメイン名で、そこに自分のニックネーム、年齢、プロフィールを入力する。

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  • 2006年3月 8日ウェブ進化論5――ひとりシリコンバレー

    「R30」というブログサイトが、いち早く2月7日に梅田望夫氏の新著「ウェブ進化論」書評を書いている。そこでは「この本は、おそらく梅田氏が日本に来るたびになんども口を酸っぱくして説明している日本のエスタブリッシュメント層の人々、なかんずく大手メディア企業の幹部を想定読者として書かれたものだろうと思う」とあって、「ネットで梅田氏のブログや講演録をリアルタイムで読んでソーシャル・ブックマークしているようなネット住民」に対して書かれたものではないと言い切っている。

    要は、遅れたオッサンのための啓蒙本といいたいらしい。かつて新聞メディアに属していて飛び出した私のような人間も、この「想定読者」に入っているのだろう。R30さんのような「ネット住民」からは、遅れた人間=エスタブリッシュメント層とみなされているのかしらん。ちょっと心外である。いくら口を酸っぱくされても腑に落ちないからといって、エスタブリッシュメント層と等号で結ばれるのは納得がいかない。おいら、もう権力でも何でもないぜ。

  • 2006年3月 7日ウェブ進化論4――グーグルの株価急落

    3月1日の手嶋龍一氏の出版記念パーティで、何人かから梅田望夫氏の新著「ウェブ進化論」について書いたシリーズのコメントをいただいた。

    「いいかげんにしないと、梅ちゃん、気にするぞ」
    「野次馬として読めば、面白いけどね。『知のネオコン』なんて、痛烈なことを書くから」
    「ふふふ、彼のミケンのしわ、思い出しちゃうなあ」

    これには困った。彼の大胆な問題提起に、オッサンが精一杯背伸びして応えているつもりだったが、新米ブロガーが年齢も省みず、年下の先輩ブロガーをいたぶっているかのように思われちゃいけない。若造をいじめるなんて気持ちはないからご安心を。朝日やITproなどで彼自身がインタビューに出ているので、異論を唱えて少し盛り上げ、エールを送ったつもりだった。こちらも本気で書かないと失礼、と考えたまでである。所詮は年寄りの冷や水だから、あれで矛を収めようと思った。でも、そうもいかなくなった。

  • 2006年2月27日ウェブ進化論3――「離魂」のロングテール

    梅田望夫氏の「ウェブ進化論」は、ネット社会の「三大法則」を唱えている。その第一「神の視点」については、前2回で書いた。第二法則「ネット上の人間の分身がカネを稼ぐ新しい経済圏」と第三法則「(≒無限大)×(≒ゼロ)=サムシング」については、いわば彼の福音の「経済学」と言っていい。一言でいえば、理論モデルでしかない「完全市場」がウェブの進化によって現実になりうるというにひとしい。

    ケインズの総需要政策から合理的期待形成仮説まで経済学の諸流諸派は、どこかで完全市場を信じながら現実には成立しないというジレンマの上に立っている。だが、グーグルが拓く「新しい世界」(Brave New World)は、梅田氏が期待するように、ほんとうに利益の再配分を可能にする「完全市場」を成り立たせるのだろうか。第二法則を具現するものとして梅田氏があげるのは、グーグルの「アドセンス」である。

  • 2006年2月26日ウェブ進化論2――ラムズフェルドの民主主義

    「ウェブ進化論」の筆者、梅田望夫氏といえば、思い出すのはすこし神経質そうに眉間にしわを寄せた表情である。あれは「9・11」のあと、東京・大手町のパレスホテルの一室だった。当時の三井物産副社長、福間年勝氏(現・日銀審議委員)を囲む会に彼と私も同席したが、彼の顔を一瞬よぎった微かな苛立ちの表情が忘れられない。

    マンハッタンに聳える二本の直方体、WTC(ワールド・トレード・センター)の崩壊で隣接する周辺ビル群も被災し、債券売買などの決済がマヒして金融パニックが起きかねなかったのに、それを未然に防いだグリーンスパンFRB(連邦準備理事会)議長の手腕に称賛の声があがったときではなかったか。それまで「9・11テロですべてが変った」と二分法で語っていた梅田氏が、アメリカ人が震撼させられたのは自業自得であって日本人がことさら浮き足立つ必要はない、と考える(私も含めた)日本人の感受性の鈍さにあきれ、危機感を分かってもらえない、とサジを投げた瞬間だったかもしれない。

  • 2006年2月25日ウェブ進化論1――梅田望夫氏の「神の視点」

    暗いところで、段差を踏み外した。足の甲の靭帯(じんたい)を痛めたらしい。土曜の朝は、左足をひきずって中国式整体でマッサージを受けた。三週間休みなしの疲れがたまっていたので、半日こんこんと眠った。さあて、と。

    この「FACTA」サイトを製作してくれた人が、私の机にちくま新書の「ウェブ進化論」をぽんと置いていった。作者の梅田望夫氏は顔見知りである。94年からシリコンバレーに住み、コンサルティング会社やベンチャーキャピタルを経営しながら、アメリカのIT社会の最前線をブログなどで発信し続けている人だ。このブログを開始したときもエールのメールをいただいた。お礼もかねて評を書こうと思った。