阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2019年7月31日 議決権行使の公表、病みつきになる面白さ

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8月に入ると、スチュワードシップコードの受け入れを表明している機関投資家が、3月決算企業の株主総会で一つひとつの議案に対してどのように議決権を行使したのかを公表するシーズンがそろそろ始まる。

議決権行使結果のチェックは意外に面白い。横並び意識が強い金融機関の間でも、個々の議案に賛否が分かれているケースが少なくないからだ。機関投資家ごとに投資対象企業との利益相反の度合いに差が生じるせいでもあるのだろうが、それよりも投資家ごとに賛否を判断する基準が異なっていることが大きいだろう。議案に反対する場合はその理由も示され、会社提案を追認するだけの時代からは様変わりした。

投資信託会社や生命保険会社などの大手機関投資家のなかで議決権行使結果を開示する動きがちらほらと出始めたのは2016年頃だ。その後も行使結果を公表する機関投資家は増え、基準の見直しも随時行われているから、投資家内部でも議論が盛んなテーマなのだろう。

事後的な検証を可能にし、企業統治の方向性や問題点を考える上でも有益だ。学者ならこれをもとに論文を書けるし、我われジャーナリスト稼業にとっては意外や、ネタの宝庫でもあるのだ。

機関投資家によって公表時期がまちまちなうえに、年に数回にわたって公表する投資家もあれば、年に一回しか公表しない投資家もあるのが玉にきずだが、面白いことには変わりない。投資対象企業によっては「企業統治の観点からは会社提案に理があるが、業績面では株主提案に従って人心を一新してもいいのではないか」といった具合に、判断が悩ましいケースも少なくないから、なおさらだ。

なかでも今年はLIXILグループのお家騒動が話題になった。株主を味方に付けた瀬戸欣哉氏側の勝利となったが、その実、クビの皮一枚の差でかろうじて選任された取締役も多く、これを瀬戸氏側の勝利と呼べるかどうかは微妙なところだ。しかし薄氷の差で勝敗を分けた背後に、投資家のどのような判断があったのか、検証も進むだろう。

事後的ではあるが、人知れずお家騒動が勃発していた事例も見つかる。ほとんど話題に上ることはなかったが、北関東のある電機メーカーは昨年6月の株主総会で創業家株主と現経営陣とが取締役の人選を巡って鋭く対立した。当時の経営陣に対して「ステークホルダーの利益に資する経営が行われていない」として、創業家側は同社の役員OBを中心とした取締役候補を立て、株主総会に提案した。会社側は当然、これに対して真っ向から反対せざるを得ない。

結局、株主総会で取締役の入れ替えを求める創業家の議案は、機関投資家たちの反対で否決され、創業家は経営からも完全に排除された。ところが当時の経営トップはこの3月に大きな損失を計上して退陣を余儀なくされた。株主資本は大きく目減りし、取引金融機関に私的整理を求めるのではないかと言われるほど、財務内容は悪化している。株主は、ガバナンスの議論は上手でも、商売は下手な経営者をどう評価するのかという究極の選択も迫られていたのだ。

右か左か、戻るか行くか、賛成か反対か。国家財政も社会福祉も外交も防衛も、待ったなしの二者択一だけがあって、その中間がない時代なのだ。判断に悩まされるのは企業統治に限った話ではない。