阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2019年7月 1日 不信だけが残ったLIXIL「画期的」株主総会

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3月決算企業の株主総会が集中する6月27日が過ぎた。日産自動車やスルガ銀行、レオパレス21など世間の耳目を集めた総会が終わり、その中には特定の企業の将来ばかりでなく、日本の企業統治のあり方を左右したり、新たな問題を浮かび上がらせたりした総会もあった。

特にLIXILグループの総会は「後学のために総会に出席しよう」とわざわざLIXIL株を買って株主になった大学教授もいたくらいだ。議決結果を見れば「シャンシャンではない株主総会とはこういうものか」と唸りたくなるような内容だし、過去にさかのぼれば旧トステムと旧INAXが経営統合する前から経営学上の研究対象になりそうなエピソードや、今に通じる逸話が数多くある。

トステムと経営統合する前のINAXは、当時をよく知る関係者の言葉を借りれば「技術力があるうえに現預金をたっぷりと積み上げていた優良企業だったが、株価対策もろくに講じていない田舎企業でもあった」という。そのため当時は、海外から買収の標的にされやすい会社のトップ3に入っていた。「実直なモノづくりの会社」は「市場に正面から向き合おうとしない会社」であることが少なくない。飛んだり跳ねたりの株価対策は、マネーゲームに付き合うようで軽薄に見えたからだろう。INAXもその典型例だったのだ。

そのためかつては会社を乗っ取られそうになり、八方手を尽くしてこれを回避した過去もあったという。今風に言えば、自己資本比率が高くて手元流動性も潤沢だが、株価純資産倍率(PBR)が1倍を大きく割り込んだまま放置されている優良銘柄が海外のアクティビストに狙われるようなことがあったのだろう。

トステムの創業者、潮田健次郎氏が生前、日本経済新聞に書いた「私の履歴書」によると、トステムとINAXの経営統合はINAX側から膝を折って申し入れてきたのが発端だったという。その背景には「意に染まない乗っ取りを受け入れるくらいなら」という、INAXの危機感が働いたのかもしれない。

LIXIL騒動はトステムを起こした潮田家と、INAXの伊奈家という2つの創業家のお家騒動ととらえる向きが多かったが、世代間で考え方や価値観の違いが浮き彫りになった騒動でもある。伊奈家出身の伊奈啓一郎・LIXIL取締役が投資ファンドと連携し、臨時株主総会を開いて潮田洋一郎氏の解任を諮ろうとしたとき、INAXの元会長で一族の長老である伊奈輝三氏に協力を求めた。

「騒ぎを起こすな。社内で何とかならないのか」とたしなめる輝三氏に対し、啓一郎氏は「社内でどうにもならないからお願いしているんです」と説得したという。会社や世間を騒がせるのは恥ずかしいという体面と、現代的なガバナンス感覚が世代間でぶつかり合っていたのだ。

しかも啓一郎氏は取締役でありながら、内部告発者のような役割を演じた。これに業を煮やしたLIXILは「取締役会の内容を外部に漏らすのは守秘義務違反ではないか」として、啓一郎氏を排除するために東京証券取引所に相談を持ち掛けたほどだったという(東証では伊奈氏の行動に法令違反はないと判断したようだ)。こうして経営トップの解任を諮るため、現役の取締役が臨時株主総会の開催を請求するという前代未聞の展開になった。LIXILの総会はガバナンスの発展史のなかで大きな一里塚をなすに違いない。

とは言え、「研究対象として面白い」などとばかり言っていられないのも確かだ。定時株主総会で選任された取締役はほとんどが賛成率50%台という低さで、首の皮一枚で選任された候補も少なくない。「株主と会社のダブル・ノックダウン」というべき内容で、株主提案に対する賛意が十分に集まったとは言えず、新経営体制は早急に混乱を収拾しなければ来年の株主総会はどうなるかわからないのだ。