阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2019年5月31日 株主総会で生保を凍らす「殺し文句」――団体保険解約ちらつかす企業

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「これはいずれ大きな問題になる。大きな問題として提起してやる」

 株主総会シーズンを前に海外の投資ファンド関係者がいきり立つ問題がある。議案に対する賛否を表明するうえで、機関投資家と受益者の間に生じる利益相反がそれだ。投資家と企業の間で建設的な対話を促すスチュワードシップ・コードにも関わる問題と言い換えた方が、より切実な響きがあるかもしれない。これまでも同様の問題があっただろうが、今年はとりわけわかりやすいケースで衆人環視の下、機関投資家は踏み絵を迫られる。

スチュワードシップ・コードは①機関投資家が受託者責任を果たすための明確な方針の策定、②利益相反を防止するための方針策定、③投資先のモニタリング、④投資先企業との建設的対話による問題解決、⑤議決権行使と行使結果、行使基準の公表、⑥受益者に対するスチュワードシップ責任の報告、⑦投資先企業との対話やスチュワードシップ活動を適切に行うための実力を養う努力――の7つからなる。

 今年の総会で注目され、あるいは問題になるかもしれないのは、利益相反の項目に生命保険会社がどう取り組み、受益者の利益のためにどう行動するか。いうまでもなく生保は受益者の代理人として機関投資家として上場企業の株式も多く保有し、株主総会ではその代理人として議案に賛否を示す。

しかしLIXILのように会社と株主の間で意見が割れていて、しかも会社が団体生命保険の顧客である場合、どうするのか。会社側から「団体保険の契約を解除する」と言われても、受益者の代理人として期待される役割を貫ききれるのか。生保は大株主として有価証券報告書や大量保有報告書にも名前が記載されることが少なくない。

ある大学教授は企業統治を研究テーマにしている勉強会に参加した際、出席していた生保関係者から「グループ保険を止めますよと、会社から脅されることがある」と打ち明けられた。冒頭の海外ファンド関係者は、ある上場企業の議案への賛否を巡って会社側と対立の真っ最中だが、同様の脅し文句で会社側が生保の賛成票をさらっていったことに「スチュワードシップ・コードの精神や企業統治そのものを歪めかねない」とおかんむりだ。

機関投資家は議決権をどう行使したのか、また賛否の理由は何だったのかを開示する生保が増えているが、批判に耐えられるだけの説明ができるかどうか。スチュワードシップ・コードの本家である英国でも利益相反は避けられないものとの前提に立っており、悩ましい問題なのだ。

もちろん生保もこうした事態が生じることは想定の範囲内であり、ある生保では利益相反が生じる恐れのあるケースとして「当社及び当社グループ会社との保険契約や投融資等の取引がある投資先企業への議決権行使する場合」を挙げている。

LIXILの騒動でも株主側の関係者が「(株主と共同歩調をとっている)瀬戸欣哉前最高経営責任者(CEO)は生保に事情を説明して回っている」と言うくらいだから、会社側も同じように賛成票を取り付けようと必死になっているのは間違いないだろう。また、こうした課題は生保だけのものでもない。

"Comply or Explain(順守せよ、さもなくば説明せよ)"がスチュワードシップ・コードの精神だ。生保はどう説明するのか? その公表は8~9月になる。