阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2018年12月 2日 水道法改正、「トカゲの尻尾切り」が蓋したもの

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国会で審議中の水道法改正案が強行採決されるのではないかと警戒感が高まっている。

 

法案は高齢化と人口の減少、設備の老朽化で上下水道の維持・管理が難しくなるのを見越して、民間業者の参入を可能にしようとするものだ。法案が提出されて自民党の議論の進め方が強引だとして反発する声も多いが、水道の問題そのものは「やっと出てきたのか」と感じている読者もいるのではないか。

水道管は浄水場から各地域に水を送る配水管と、そこから各家庭に枝分かれしていく給水管の二つがあり、喫緊の課題はこれら水道管の老朽化である。日本の経済成長や日本人のライフスタイルが変わったのに伴って各家庭に風呂や水洗トイレが普及して水需要が拡大し、古い水道管では直径が不十分で水需要の拡大に追い付かなくなっていった。加えて近年では耐震性を高めるために水道管の材質や継手の改良を進める必要性にも迫られている。すでに30年ほど前には、明治期に埋設された銅製の水道管が腐食して水漏れを起こしており、「土中でカネをぶちまけているような状態で、将来は大変な問題になる」と言われてきた。

大きな更新需要があるはずの事業領域だが、たとえば給水システムのトップシェアを持つ前澤給装工業(東証一部)の売上高が10年以上も220億円から250億円の間で足踏みし、一向に成長する気配がない。各自治体は予算の制約で、実害が目に見えにくい水道管対策を後回しにしてきたからだ。

水道法改正を警戒する声が今になって高まってきたのは、水道施設の所有権を自治体に残したまま、運営権だけを民間業者に委ねる手法をとった諸外国で失敗に終わった例が次々に浮かび上がったことと直結している。欧米やフィリピンなどで民間業者の参入を許したところ、水道料金が跳ね上がったり、水質が悪化したりで、その挙句に社会不安を起こした例がいくつも報じられた。最近の調査では、約40カ国で200以上の民営化が失敗して再公営化されたという。日本が水道の運営権を「水メジャー」と呼ばれる外資に開放して海外と同じ轍を踏むのではないかと懸念の声が上がるのは当然だ。

しかも利権にたかろうとする怪しげな動きも見え隠れしていた。菅義偉官房長官の補佐官で、水道コンセッションの旗振り役となってきた福田隆之氏に水メジャーとの癒着が疑われる怪文書が出回り、欧州視察に厚生労働省がそっぽを向くなど悪影響を無視できなくなった。福田氏は11月9日に辞任したが、事実上の更迭とみられている。改正案の国会審議の前に、トカゲの尻尾切りで臭い物に蓋をしたというのが実情である。

今のところ都道府県単位では水道事業開放に前向きな自治体は宮城県だけの状態だが、安易な外資開放の前にできることはありそうだ。日本では水道管の規格が地域によって異なり、給水管では小規模のメーカーが林立している状態だという(配水管はクボタをはじめとする大手への集約が進んでいるが)。規格を統一してメーカーに量産効果が出やすくしてやり、安価な製品ができるようになれば更新を促すきっかけになるかもしれない。

また、日本勢では10年ほど前から総合商社が中心となって英国やオーストラリアなどに進出し、水道の運営権を取得している。水メジャーに比べると後発組だが、すでに持ち分を売却して退出した商社もあるくらいだから、実際に商社の進出先で収益状況や料金の推移、産業への影響がどうだったのかを改めて検証してみてもいいだろう。