阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2018年4月 2日 [reuters]過去最高のM&A件数に潜む日本経済の「落日」

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日本企業のM&Aが伸び続けているという。M&A仲介会社のレコフのまとめによると、2017年の件数は3050件に達して過去最高を更新し、東日本大震災に見舞われた2011年を底に6年連続の増加となった。年度ベースでも増勢が続いているだろう。

その背景として先進技術を取り込むためのM&Aが件数の増加を引っ張っている点が挙げられているが、意外や追い詰められた末、苦し紛れに打って出たM&Aも少なくないのが実情ではないか。国内勢同士のM&Aが2180件と全体の7割以上を占め、海外に打って出るためのM&Aを大きく上回っているのだ。

たとえばAIが自動運転の道を開く技術としてストレートに影響を及ぼしそうな自動車の周辺では、カーナビの製造販売を手掛けてきた富士通テンがデンソーに買収されて、昨年には社名がデンソーテンになったほか、アルパインは親会社のアルプス電気との経営統合が進行中だ。

しかし実情はと言えば、すでにカーナビの機能はスマートフォンが取って代わり始めており、自動車がネットにつながっているコネクテッドカーが普及するにつれ、カーナビメーカーは数年内になくなるとの見方が公然と語られている。

デンソーによる富士通テンの買収はカーナビの技術者の転用によってAIの技術者不足を補うための戦略的なものだとしても、アルパインの場合はこのまま放置すれば、アルプス電気グループの地盤沈下につながるとの危機感が根底にあるはずだ。これまで収益面で「アルプス電気の孝行息子」だったはずのアルパインが収益の柱を失い、グループのお荷物になってしまう恐れが生じているのだから。

証券会社でカーナビメーカーを担当するアナリストが少なかったり、担当はしていてもきちんとウォッチしているアナリストが少なかったりするのにはこうした背景があるのだろう。株式市場でも一部のヘッジファンドが経営統合の条件に不満を表明している程度で、アルプス電気が日経平均株価の採用銘柄である割に市場は冷めている。

金融機関のM&Aも同様で、人工知能(AI)の進化に伴ってM&Aのマーケットが刺激を受けているのは確かだ。コンピュータが資産運用を指南するエイト証券を、野村アセットマネジメントが買収に乗り出すなど、フィンテックに関連した買収や提携が盛り上がりを見せてはいる。

しかし時代を先取りするようなM&Aは限られている。地方ではただでさえ優良な貸付先が少ないのに、日銀のゼロ金利政策で利幅がいよいよ小さくなった。この2~3年は地銀間のM&Aはもちろん、地方に店舗網を持つ準大手・中堅クラスの証券会社と地銀が共同出資で「ご当地向け」の証券子会社を設立する動きもじわじわと続いている。

これを戦略的な子会社と言えば聞こえはいいが、投信販売による手数料欲しさが見え見えだ。証券業界にとってもそれらが下支えとなり、昨年あたりに証券会社の減少にようやく歯止めがかかったが、「これを積極的なM&Aとして素直に喜んでいいものか」と首を傾げるエコノミストもいる。

電機や鉄鋼、紙パルプなど、全体を見渡せば各事業の川上から川下まで一気通貫を目論むような積極的なM&Aもあるが、それとて「局所的最適化」と呼んだ方がいいような粒の小さい印象が強い。日本経済の縮小を先取りしているとみるべきか、嵐の前の静けさとみるべきか。