阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2017年10月 2日 [reuters]積水ハウスの地面師事件と「ハコ企業」社長

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新宿や六本木、新橋、銀座......この数年、地価の上昇に伴って、月刊誌FACTAでも都内で地面師が暗躍する詐欺事件をたびたび報じてきた。大手の不動産会社さえもやすやすと手玉に取る手口の鮮やかさもさることながら、次第に被害規模が大きくなり、表社会を浸食し始めている様が際立ってきた。

登記のオンライン化に伴って、法務局のファイルに綴じられている土地の登記簿を抜き取って改竄するという"古典的"な手口は通用しなくなり、地面師たちは詳細な役割分担を決めてグループで事件に加わるのが最近の特徴だ。高度なノウハウやディープな情報を持った専門集団が離合集散を繰り返しながら新たな事件を起こす。近年、地面師事件では多くの場合、複数のグループが関与しているとの疑いが濃いのは、そうした背景があってのことだろう。

たとえば建設会社の営業部長は信託銀行と親密になろうとするという。相続に絡んだ再開発可能な土地の出物がどこにあるのかを信託銀行は知り尽くしているからであり、地面師グループにもそうした情報やノウハウを集めることに長けた人物が、金融機関や弁護士、司法書士などからそれとは分からない形で情報を引き出す役割をになっているのではないか。そうした細分化された役割の中で、だまし取ったカネをどのようにロンダリングするのかも重要な仕事だろう。

興味深い話を聞いた。積水ハウスの事件では関与が疑われているグループの裏側に、意外な人脈の存在が浮上しているというのだ。東京・五反田の一等地にある日本旅館の跡地を舞台として、地面師に63億円をだまし取られた積水ハウスの事件は、すでに警察に被害届が出されており改めて説明する必要はあるまい。

積水ハウスの事件に関わったとみられる中心人物と、FACTAでも「最後のハイエナ」として取り上げてきたジャスダック上場の「ハコ企業」の社長が並んで写っているツーショット写真があり、これをある週刊誌が入手したそうだ。一時はシンガポールに豪邸を構えていたこの社長、日本に舞い戻って怪しい事件の周辺でまだ出没しているとは驚きだ。

このハコ企業の社長はこれまでも金融詐欺まがいのトラブルを繰り返し、そのたびに被害者から裁判を起こされ、証券取引等監視委員会もその動向を監視している人物。法廷に出頭した姿を見かけたことがあるが、すっかり貧相になって金融ブローカー顔になっているのには驚いた。この社長は、地面師がだまし取ったカネを海外で溶かし、カネの出所を分からなくしてしまう役割を担っている可能性を疑わずにいられない。

ひとつの地面師事件に様々な役割の専門家が加わる手口は、経営不振に陥った上場企業を舞台に行われる「M資金詐欺」などの不公正ファイナンスとよく似ている。カモにする投資家を集めることに特化した専門家もいれば、ハコ企業が資金調達する際にそのスキーム評価を専門に行う特定少数の会計事務所もある。増資を引き受ける投資ファンドや投資組合も顔ぶれが決まっていることが多い。

専門家が不公正ファイナンスの特定分野にだけ協力し、それが終わると別のファイナンスに関わる離合集散のシステムが出来上がっており、それだけ大きなビジネスとして定着しつつある証左であろう。尻尾をつかまれないよう分業するハイエナの群れは、いわば「分身の術」で当局の追及を免れようとしているのだ。

数年前に地面師事件が増え始めた頃から、証券監視委は不公正ファイナンスに不動産を絡める動きにも目を配るようになった。ハコ企業に対して不動産を用いた現物出資による増資が勢いを増しているからだ。地面師詐欺と不公正ファイナンスが共通の資金洗浄ツールを持つ時代が到来したのかもしれない。