阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2017年8月31日 [reuters]偶然か、日立と東芝に見る親子上場問題

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これも親子上場があぶり出した、大株主と少数株主の意見対立のひとつだろうか。日立製作所が子会社の日立国際電気の売却を中止した一件である。

日立国際電気は、いずれも上場していた国際電気と日立電子、八木アンテナを2000年に統合させた子会社で、半導体製造装置や無線通信システムや放送・映像機器を主力としている。しかし日立がグループ全体の事業を見直した結果、もともと外様大名扱いだった日立国際電気は戦力外通告を受け、売却されることになった。

それでもエポックメイキングなM&Aになるはずだった。日本の電機・自動車メーカーがグループ企業を同業他社に売却することはあっても、海外の投資ファンドに売却したケースはまれと言われるなかで、それを日立がやろうというのだから。しかも日立がこの2年ほどの間、グループの全体を大きく変容させつつあるのは、「東芝の轍は踏むまいとしているのだろう」として、日立の本気度を示す案件でもあったのだ。

一方、売却先になっていた米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は、他のファンドと異なり、日本の基幹産業である電機・自動車分野でM&Aの実績をあげることに特化してきた。外食産業や食品などには目もくれず、日立案件を手掛けることを大きな目標にしていたのだ。

しかし半導体製造装置の需要拡大が株価を大きく押し上げ、これがM&Aの足を引っ張った。日立国際電気の売却価格は、日立の決算説明会でも「売却価格が安すぎるのではないか」と無遠慮に質問が浴びせかけられたほど安かった。

売れるときに売ってしまいたいとする日立と、1円でも高く売れた方がいい日立の株主の間で利益や意見が食い違うのは当然だった。日立国際電気の株主にとっても、売却価格が高くなれば埋もれていた株式価値が顕在化することにつながる。日立は親子上場の問題に足をすくわれて子会社売却に失敗したと見えなくもない。

親子上場の問題が最も先鋭的に表出したのは東芝と東芝プラントシステムの現預金問題だった。16年3月期末時点には855億円あった東芝プラントのグループ預け金は17年3月期末にはゼロになり、一方で東芝のバランスシート上、17年3月期の現預金は前期比で2374億円減って7076億円になった。すでに大幅な債務超過に陥っている東芝にとって預け金の引き出しは痛かろう。

しかし東芝プラントやその少数株主にとって、先行きが不透明な東芝に現預金を預けっぱなしにすれば、万一の時には大きな損失につながる恐れがあり、東芝プラントの経営陣は善管注意義務違反があったとして株主から訴えられても何の不思議もない。

現に東芝プラントの株主である香港の投資ファンドのオアシス・マネジメントが、東芝に低利・無担保で預けられていた資金を回収せよと2年もかけて働きかけ、ついには横浜地裁から仮差し止め処分まで受けてグループ預け金を奪還した。

東芝はまた、半導体部門の東芝メモリを売却しようとしてダッチロールを繰り返しているが、ウェスタン・デジタル(WD)と組んで独占交渉権を得ようとしているのが、何の因果か、このKKRなのである。こちらは非上場だから親子上場問題ではないが、土壇場でライバルのベイン・キャピタルがアップルと組んで新提案を出したことでもつれている。海外ファンドが絡むと、日本の大企業が抱える矛盾があらわになる構図は共通している。

日本の主力産業で親子上場の問題が相次いで浮上したのは、単なる偶然だろうか。他国ではほとんど見られないとされる親子上場は、株式市場に残る未開な風習として制度そのものを見直す局面に差し掛かっている。