阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

2016年10月30日 [reuters]三菱自動車の内部統制と益子社長の「二重の責任」

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株式投資の世界に身を置く者なら、企業の不正が明るみに出るたびに、誰でも「不正は数字だけにとどまらないのでは?」と考えたことがあるのではないか。

日々の業務が適正に行われていなかったのに、内部統制報告書には"内部統制は有効"と記載されている。これは虚偽記載にあたらないのか? つまり金融商品取引法違反にならないのか?

虚偽記載というと、有価証券報告書なら収益の水増しや総資産や純資産のかさ上げなど、数値に表れる"定量的な要因"が思い浮かぶだろう。東芝やオリンパスの粉飾決算はこれにあたる。

これに対して"定性的な要因"は、有報に記されている事業環境やリスクなど、数字では表せないものだ。業務が適正かつ効率的に行われるための仕組みができているかどうかを自己評価した内部統制報告書もこれにあたるだろう。

内部統制がシステムとして有効に機能していないのに、報告書にはさも機能しているかのように記載されていれば、場合によっては定性要因の記載に虚偽が含まれると指摘することもできるだろう。これに引っかかりそうな企業は決して少なくない。

三菱自動車のデータ偽装や東洋ゴム工業の免震偽装、三井不動産レジデンシャルが販売したマンションの杭打ちデータ偽装、あちこちで頻発する食品の原産地偽装などがそれだ。製商品の性能などに関する不正は業績の浮沈や財務内容、継続企業の前提にさえ直結するのだから、定性要因の虚偽記載は本来ならもっと深刻にとらえられるべき問題だ。

しかし内部統制はコーポレート・ガバナンスの要諦でありながら、体裁を整えただけの企業がほとんどだろう。東芝や三菱自動車以外にも、内部統制報告書に「内部統制は有効ではないと判断した」と書かざるを得なくなった企業が今年に入って数十社も出てきているのは、その証拠だ。

三菱自動車の場合、特に悪質なのは4月に燃費の不正問題が発覚した後も、燃費測定で都合のいいデータだけを抽出して新車を販売していたこと。6月に相川哲郎社長兼COOが引責辞任してはいるが、三菱自動車の内部統制報告書には「取締役会長兼社長CEO(当時)の益子修は、当社の財務報告に係る内部統制の整備及び運用に責任を有し」と明記されている。

内部統制の評価の範囲がどこまでかを吟味しなければならないが、相川前社長の辞任後にまだ不正が発覚したのだから、益子社長の責任は二重に重い。

特に内部統制に関して言えば、定性要因は数字に表れにくいだけに、これらについての虚偽記載や、それに伴う金融商品取引法違反に問われてペナルティを受けた企業は、まだない。

しかしこうした状況にようやく風穴が空くかもしれない。データ偽装などの不正が大きな問題になった場合、「縦割りで監督官庁が処分を決めるが、証券取引等監視委員会も開示情報のうち、定性要因の記述に問題がなかったか調べている」(金融庁幹部)というのだ。

監視委の取り組みが新たな領域に踏み出そうとしていると言えるかもしれず、これまでこうした問題を等閑視していた企業は真っ青になるだろう。