阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2016年10月25日 東京都「官製談合」疑惑追及2――前広尾病院長はなぜ録音したか

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FACTAは都立広尾病院の前院長、佐々木勝氏の内部告発を精査し確証する形で、その裏に病院移転にとどまらない闇があることを、11月号の「東京都利権の『黒幕』五奉行」記事で暴いた。前回のブログでは、その佐々木氏が副知事から左遷を言い渡される生々しい場面を、肉声録音つきで公開した。録音はこれだけではない。佐々木氏にとって上司である都の病院経営本部幹部たちとの会話をなぜ録音したか――その事情を本人が本誌に語っている。それで見る限り、政治案件ちらつかせて役人が利権を強行する理不尽には、こうした録音と内部告発で対抗するしかなかったことがよく分かる。

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私はなぜ内部告発したか

前広尾病院長・都保健公社副理事長(内閣官房参与)
佐々木 勝

私がマスコミに向かって、広尾病院移転に関する手続きのおかしさを指摘していることについて、現在の都庁病院経営本部の幹部(内藤淳本部長)などが、悪口を言っているといった噂が耳に入ってきます。それは例えば、「佐々木は左遷されたことによる恨みつらみでやっている。彼にあるのは私利私欲だけ」といった類の話です。また、実際に取材を受け始めると、現在勤務している都保健公社の幹部から「本部が決めたことだから先生が今更ことを荒立てても」ということを言われてしまいます。

私は、誰に相談することもなく、ひとりで「最初に移転ありきはおかしい」と、訴えてきました。大切なのは、都民や利用者が広尾病院に求めているものはなにか、広尾の役割を満たすものはなにか、そして移転にせよ建て替えにせよ費用対効果が最も優れているものはなにか、という視点であり問題意識です。

それを口にすることが自分の役職や生活の役に立つとは思っていません。ただ、小池都知事のいう「都民ファースト」の考えに立てば、医療現場の声が反映されず、誰が決めたかわからないブラックボックスのなかで青山移転が決まり、医師会にもどこにも説明がないまま予算化されるような都政のあり方は、おかしいと思うのです。

NHKの放送部門が青山(こどもの城跡地)に移転し、その空いた土地に広尾病院が移転するという話は、2014年頃から流れていました。現場の声を参考にするわけでもなく、「移転ありき」はおかしいのではないか、と思っており、15年1月21日、醍醐勇司本部長が来院して説明されるというので、2人の会話を録音することにしました。

結果的に、会話を残したのは正しかったと思います。これがなければ、政治的な思惑が働いたであろう移転のおかしさを訴えることはできませんでした。紙の書類だけでは、プロセスが不明なまま手続きが正当に行われたという記録しか残らないからです。

ともあれ、醍醐本部長のその日の説明は、移転先候補地にNHK放送センターの代々木と、青山のこどもの城の2箇所があり、移転については秋山副知事も了承している、というものでした。移転ありきは明確で、しかも都議会自民党幹事長で渋谷区長選に立候補を予定している村上(英子)都議もこの話は了承していて、これを(選挙の際の)自分のアピール材料にするということでした。

移転先の都合に合わせて病院を動かすなんて、医師や病院職員、患者や利用者をバカにしています。そんなことがあってはならないと、6日後の1月27日、秋山副知事に会い、直訴しました。秋山副知事は、政治家の名前を出して迫ったことについては陳謝したうえで、「広尾病院の機能の在り方」の調査に1000万円、「病院の改修改築の在り方」について1000万円の予算を提案され、私は信用がありかつ中立的な業者ということでみずほ情報総研に依頼しました。

その結果、「機能の在り方」については3月末までに、「改築改修の在り方」については6月末までにまとめ、それぞれ小冊子にして病院経営本部に提出、報告するとともに、広尾病院の各責任部長科長に配布しました。この二つの報告書では、広尾病院を現地で改築改修する方にメリットがあることが明らかでした。

しかし、この報告書が病院経営本部で検討された様子はなく、質問、意見、要望といった働きかけはありませんでした。7月13日、醍醐本部長の後任の真田本部長が来院された時も、移転ありきではなく、改築改修を前向きに検討します、と言っていたのですが、その後も特に進展はありませんでした。

そうこうしているうちに、「広尾病院の建て替え困難」とする報道が日刊建設工業新聞(10月20日)に掲載されるのです。伊藤喜三郎建築研究所に「広尾病院整備に係わる調査業務」を発注したという報道ですが、「現敷地内で大規模な建て替えを行うのは困難と想定される」と書いており、やはり「移転ありき」です。

それが確実になったのは報道の翌日です。川澄俊文政策企画局長(現副知事)が来院、「舛添知事のレガシーのために広尾病院を青山に移転する」というのです。要は、醍醐本部長の来院時から「移転ありき」が変わることはなかったし、変えるつもりもなかったということです。最初はNHK跡地、それがダメならこどもの城跡地。みずほの調査も私の進言も、参考にするつもりはなかった。

この日を機に、私は対外的に発言をしていません。私も従業員の一人であり都庁から見れば事業所の一所長に過ぎず、本社の幹部が決定したことには従うしかありません。口を開く気になったのは、8月29日の私の大学の先輩である東京都病院協会の重鎮からの移転改築に関する経緯を説明して欲しいとの要望と舛添知事から小池知事にトップが変わったからです。小池知事は、豊洲市場や東京オリンピックで判明したブラックボックス化した決定のプロセスを再確認すると言われた。そして都政改革本部を設置した。そうした流れのなかでなら、広尾病院移転に関する政治決着のおかしさを取り上げてもらえると思ったのです。

今、私の身辺には不可解なことが連続して発生しています。9月8日には、「出る杭は打たれる。出過ぎた杭は打たれない。ただ、引き抜かれるのみ・・・・・・」という脅迫状が届いています。PC環境がおかしくなり、なにわナンバーの高級車が自宅マンションに横付けされていたり、セクハラを警告するように女性のハイヒールが私の車の後ろに投げ捨てられていたこともありました。

今年2月29日、秋山副知事と真田本部長が来院、さしたる理由は告げられずに、現在の東京都保健医療公社への異動を宣告されました。秋山副知事は、いろんな仕事を担当して欲しいといっていましたが、左遷であり閑職に追いやられたのは明らかです。なにしろ3月29日、公社の事務局長がわざわざ広尾病院に来院、「公社に来ても仕事はないし、出勤しなくてもいい」と告げたのですから。もちろん、そんなことは秋山副知事が自ら訪れて異動を告げ、「一週間以内に結論を出せ」と迫った時点で明らかでした。

今回、広尾病院の移転問題が、小池知事の言葉通りに「(取り上げたとしても)優先順位は低い」として、何事もなく行われるようなら「都民ファースト」の都政改革はどこに行ったのか、という話になると思います。そして私は、「ひとりで騒いでバカをみた」という存在になる。

広尾移転を強引に政治力で進めた人間は、順調に出世、あるいは恵まれたところに天下りをし、それが都民のためになっているのかと疑問を呈した人間は、左遷されて仕事を奪われ、生活圏を脅かされている。そんなことがあっていいんでしょうか。

私は、移転のプロセスのおかしさを指摘しているわけで、広尾での改築改修にこだわっているわけではありません。もし青山への移転が優れたプランだというなら従います。しかし、そうではなく何らかの政治的理由で移転が決まり、土地購入費用の370億円に病院建設費も含めると900億円にも達するという計画が、何のチェックもなされずにこのまま進んで行くようなことがあれば、小池知事に代わっても、豊洲の構造を残した都政のままだということになり、それを危惧するのです。
 

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後段の2月29日の左遷の録音を前回ブログで公開した。次回は醍醐勇司元病院経営本部長(現水道局長)が昨年1月、広尾病院の移転先に渋谷区神南の放送センターか、青山病院跡地と国連大学が上がっていることを告げ、それが同4月の渋谷区長選に出馬する自民党の村上英子都議の"目玉"公約になりうることを示唆した問題の録音を公開する。

都庁幹部が一部政治家を応援するための計画だとしたら、官僚による利益供与にあたるから、醍醐氏は司直に裁かれねばならない。