阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2016年8月30日 内憂外患の監査法人

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監査法人や公認会計士は、超えてはならない一線を越えてしまったのではないか。

大阪府内在住の40代男性は7月19日、新日本監査法人が粉飾決算を漫然と見過ごしたとして、東芝に対して損害賠償請求訴訟を起こすよう求める書簡を送りつけた。損害賠償請求額は115億円。ベテランの会計士も「これまで監査法人を相手取って訴訟を起こす話など、聞いたことがない」というから、監査法人を手放しで信頼し、ありがたがる時代は終わったのだ。

これはこれで問題だが、実は国内に目を奪われているうちに、沖合に黒船が多数押し寄せていた。米国を中心とした海外機関投資家が、国内のある監査法人を相手取って集団で損害賠償請求訴訟を起こそうと準備に取り掛かっている。関係者によると、その数は数十社に上るというから、賠償請求額はそれなりに大きくなるだろう。

大手監査法人と言えども、純資産の蓄積にさほど厚みがあるわけではない。トーマツが公表している財務諸表によると、前期末(2015年9月末)時点で総資産501億円に対し、純資産は239億円。あずさ監査法人は同6月末時点で総資産528億円に対し、純資産は195億円。新日本監査法人は同6月末時点で総資産645億円に対し、純資産は148億円でしかない。外国人投資家の間で監査法人の責任を問おうとする機運が高まり、訴訟が次々と起こされるようだと監査法人は財務上の負担が高まる。

オリンパスの損失隠し事件では、監査役等責任調査委員会が立ち上げられ、そのなかで監査法人について「注意義務違反はなかった」との結論が導き出され、無罪放免となったことから監査法人を訴える動きは封じられた。

しかしその後も粉飾決算が相次ぎ、ユルフン監査の実態や日本公認会計士協会の自浄能力のなさが明らかになるにつれ、海外投資家は業を煮やすようになった。過不足のない言い方をすると、海外投資家は粉飾決算を見過ごしてばかりいる監査法人を監査の世界から追い出したいと考えている。

日本の民法で立証責任が投資家側と監査法人側のどちらにあり、立証がどれほど困難であるかという当面の問題はさておき、こうした訴訟がたびたび起こされれば監査法人の経営危機が囁かれる時代が来ても何の不思議もない。

日本公認会計士協会内でも火種がくすぶる。東芝の粉飾決算では、トーマツが裏コンサルを務めていたことが、漏出した社内メールから判明。公認会計士の間でトーマツの責任を追及すべしとの声が高まりつつあり、これに伴って一部には協会幹部の責任を問う声さえ出始めている。米国がそうであったように、日本でも監査部門とコンサル部門を完全に分離し、兼営を禁じる議論が出てきてもおかしくない。

 まだまだ残暑は厳しいのに、日本の監査法人には一足早く厳しい冬の時代が到来したのだ。