阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

2016年7月29日 泥水を漁る「ウミウシ」が伊藤忠を狙う

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伊藤忠商事が空売りファンドに狙われている。

米国のグラウカス・リサーチ・グループが7月27日、伊藤忠について「必要な会計処理をせず、連結純利益を過大に計上している」として強い売り推奨のレポートを発表、伊藤忠株はその日の取引から急落したのだ。グラウカスが日本企業を標的にしたのは、これが最初だという。

グラウカスは、伊藤忠がコロンビアでの石炭事業で鉱山の減損処理を行っていないことを売り推奨の第一の理由に挙げ、第二に中国で中国中信集団公司(CITIC)などに巨額の投資をしながら、主導権を中国政府に握られていることを指摘している。

むしろ市場で懸念されているのは第二の理由だろう。

CITICに対する伊藤忠の出資額は約6000億円に上り、連結自己資本の3割近くに達する計算だ。すでに引き返すのが困難な水域に達している。日中関係が改善の糸口を見いだせないなかで、中国政府が見せしめとして何をしてくるかわからないだけに、伊藤忠が抜き差しならないほど中国に傾斜していることは市場でも大きな懸念材料なのだ。

伊藤忠の慌てぶり、というよりも危機感は相当なものだ。27日には11時30分に「当社の会計処理に関する一部報道について」を発表し、同日19時45分には「当社の会計処理に関する一部報道について(その2)」をTDnet上で公表した。商社は事業の性格上、メーカーなどよりも市場に近いところに立たざるを得ないことを割り引いても、無用の疑念が渦巻く事態を避けようとしていることはありありとわかる。

同じく空売り屋の先駆けであるマディ・ウォーターズ・リサーチを月刊FACTAが取り上げたのは、ちょうど5年前の2011年8月。マディ・ウォーターズが米国やカナダで次々に上場した中国企業を狙い撃ちにしている様子をリポートした。

カナダで上場しながら、マディ・ウォーターズに標的にされたシノフォレストはその後どうなったか。同年8月に経営トップは辞任に追い込まれ、2012年には加オンタリオ州の裁判所はシノフォレストの破産保護申請を認め、ついには上場廃止に至った。監査法人のアーンスト・アンド・ヤングや格付け機関のムーディーズも面目が丸つぶれになる事態に陥ったのだ。

マディ・ウォーターズは泥水を指し、中国語の「渾水摸魚」(泥水の中で魚を手探りする=どさくさに紛れて荒稼ぎする)という慣用句に由来する。

一方、伊藤忠を標的にしたグラウカスは海洋生物のウミウシのことで、同社のHPには特に「自身より大きく、より強力な毒を持つ生物を食べる」「獲物が持つ毒に耐性を持っており、この毒を捕食者に放出する」とある。なるほど、設立の趣意は"大物に憑りついて死をもたらす"ということか。マディ・ウォーターズ同様、中国企業を血祭りに上げた実績もあるから、伊藤忠が焦るのもよくわかる。

本誌がマディ・ウォーターズを記事で取り上げた後、オリンパスや東芝といった大企業にさえ粉飾の悪習が染みついていることがはっきりした。そしてオリンパスは中国でも゛汚染"されていることが、FACTA7月号で明らかになっている。

深センのデジカメ製造子会社が税関とのトラブル解消のため、現地の警察OBの企業を交渉役に使ったところ、贈賄の疑惑の泥沼に浸かっていたのだ。

米国の空売り屋の跳梁は、日本の株式市場がすでに中国の泥水まみれとみられていることの表れかもしれない。