阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2016年5月17日 [スクープ]買われた? 東京五輪8――電通の株主総会(Ⅱ)

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3月30日の電通株主総会から、スポーツ利権疑惑にかかわる部分の質疑の続きである。
(Ⅰ)で質問した株主が再度質問に立った。

「フットボール批評」2015年6月号より、インタビュアー田崎健太氏

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株主 まあ、(FACTAおよび海外メディアに東京五輪の「買収」疑惑を)書かれているのに、これについては法的手段に訴えないと(いうのですね)。これはやはり、株主からすると疑わしい。世間から見ると疑わしい。それで第二問ですが、FIFAへの8億円について高橋治之氏(元電通専務、現コスモス会長、東京五輪組織委理事)は(スポーツ)ジャーナリスト田崎健太氏とのインタビュー(光文社新書『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』)で、こういう趣旨の証言をしています。

「金はロビー活動として払った。電通は直接手を汚せないので、具体的な使途はISL(電通とアディダスの合弁スポーツ・マーケティング会社)に任せた」

高橋氏は「電通に贈賄の責任はない」と釈明したかったのでしょうが、これでは別の疑問が生じてしまいます。仮に、最終的なカネの行先やその効果を確認しないまま、どんぶり勘定でISLに大金を振り込んだとしたら、立派な背任行為です。高橋氏は贈賄罪を免れても、背任罪は免れません。

また高橋氏には「ISLから香港のペーパーカンパニーを通じて、多額の裏金が払いこまれていた」「東京五輪招致では、高橋氏が裏工作の中心だった」との報道(FACTA)もあります。高橋氏は役員退任後も電通コモンに就任されていますが、今現在、電通と高橋氏の関係はどうなっているのでしょうか。高橋氏は東京五輪組織委員会の理事を務めているので、電通とは今でも深い関係にあると思うのですが、こうした疑惑まみれの人物との関係を見直すことはお考えでしょうか。

石井社長 はい、もう一問でございますね。先ほど言及されたFIFAへの8億円について、私どもの元役員でありました高橋氏がお金はロビー活動として払ったのは事実だと、本の中でしょうか、語っていたということ。そういったことも含めて高橋さんが……私どものOBである高橋氏が背任罪なのではないか。(高橋氏は)顧問を1年間……2年間、務めておりましたけれども、現在の電通と高橋氏の関係はどうなっているか。こういったご質問に思います。これに関しては、高田専務取締役執行役員から。

高田専務 今のご質問については、確かに高橋さんはですね、ウチのOBであります。今現在、高橋さんは、我々の知る限りにおきましては、オリンピックの組織委員会の理事をやっています。そういう意味では、今のご質問の高橋さん、OBである高橋さんと、われわれ電通がどう言うご関係かというご質問でございますけれど、われわれはですね、組織委員会とマーケティングの……(急に声が小さくなり聞き取れない)ので、個々の組織委員と……(また声が聞こえない)常に内部のお仕事をさせていただいております。その中でいくつかの作業において、高橋さんにアドバイスいただくこともありますし、われわれからすることもございます。ただ、そのなかでいまご指摘のですね、何か問題のあること、まあ、その、ちょっと疑念に思うようなこととか、それは一切ございません。以上、回答申し上げました。

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石田社長も高田専務も、これが広告の元営業マンかと思うほど、しきりと言い淀んでは、主語に対応する術語なしですます尻切れ文が多い。なんとか隠しおおせようと、口をモゴモゴさせる、典型的な怪しい答弁口調である。

それにしても、光文社新書の『電通とFIFA』は、われわれの前には出てこない高橋元専務が、昨年のサッカー専門誌「フットボール批評」06、07、08号でインタビューに応じて語った記事を土台にしている(上の写真はその誌面)。メディア界ではタブーの電通をタイトルにした勇気は買うが、総じて電通がアディダスと組むようになった70~90年代の高橋の自慢話が大半で、ISLが破綻した2001年5月以降は急に14年間も飛んでしまうのが物足りない。

第六章の「全員悪人」は、FACTA2008年6月号を引用している。高橋はその記事に「なんでぼくがISLから金をもらわないといけないんだ。ISLがお金を払うのは、自分たちが権利を獲得するのに必要な人物のみ。ぼくに払うはずもない」と反論している。ああ、これかと思った。高橋がインタビューに応じた理由は。

だが、ISLが香港のギルマーク・ホールディングスに400万スイスフランの送金をした事実は、スイスでの裁判に提出された証拠で確証されている。そしてギルマークの実質オーナーが「ハルユキ・タカハシ」であることも。それをこのインタビュアーは問い詰めておらず、高橋も否定していない。だとすれば、香港の口座は誰かに対する賄賂の支払いのためのトンネル口座であり、高橋はただ「私はしていない」と言っているにすぎないのだ。

サッカーはよく知っているが、国際金融のシャドーバンキングの知識やスキャンダル報道のノウハウを知らないスポーツ記者なら、すでに時効だろうと、高をくくって取材に応じた高橋の腹のなかが透けて見える。それにしても、今回のシンガポールのブラック・タイディングス社の「裏金」口座とよく似た仕組みだとは思わないだろうか。初耳のイアン・タン・トン・ハンの役目も名義貸しかと思える。ただし、パナマ文書には出てこないからカリブ海ルートとは別に、アジア・ルートが香港やシンガポールにあるのだろう。

5月16日の衆議院予算委員会で、2020東京五輪招致委の理事長だった竹田恒和JOC会長は、参考人として出席し、ブラック・タイディングス社とコンサル契約を結んだ経緯について、電通の推薦があったと述べた。これでいよいよ、電通とブラック・タイディングスとAMSの関係のうち、その一端がつながった。問題は電通の誰がブラック・タイディングスを知っていて、どういう関係だったのかである。

それともう一つ、竹田会長に聞いてほしかった。高橋は六本木のアークヒルズ仙谷山森タワーのステーキ屋「そらしお」のオーナーだ。ここで竹田がステーキとワインを楽しんでいる光景が見られたが、なぜこの店がお気に入りなのかを聞いてほしい。電通本社のある汐留にもソラシオがあり、こちらはやや安いが、仙谷山のはかなりお値段が張る。高橋がオーナーというのは以下の「日経レストラン」の記事ではっきりしている。

ソラシオ
お客様は笑顔か、厨房からのぞき見しています
2012年12月5日

今回のレストランのオーナーはわたしの親友、高橋治之である。汐留の天空に浮かぶがごとき店ゆえ、「ソラシオ」という。高橋自らが命名した。夜景の美しさは世界一である。

よくここに若いカップルが訪れる。絶景を眺めながら、男は交際や結婚を申し込むらしい。成功率は98%だそうだ。これまでに、たったひと組のカップルが破談になった。食事の途中、女は席を蹴って「わたしはそんな気持ちでここにきたのではありません」と捨てセリフを残して帰ってしまった。取り残された男は眼下の灯りに何を思っただろうか。