阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2013年8月26日 [reuters]「オリンパス」の風化と嫌な空気

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FACTAがオリンパス事件を最初に報じて2年余りが経ち、早くも事件が風化し始めているようだ。事件から引き出されたはずの教訓が、まるで生かされていない事例がぽつぽつと表れているのだ。

ある大手商社はオリンパス事件の発覚直前に社外取締役制度を採り入れ、コーポレート・ガバナンスに一家言を持つ人物を招いた。ところがせっかく招いた人物がガバナンスについて積極的に発言したことがよほど気に入らなかったらしく、社外取締役を解任したくなった。おおっぴらに解任すれば目立つため、社外取締役の任期をわずか2年と定め、任期が到来したこの4月にクビを切った。

ガバナンス問題の専門家からは「月に1~2回の出社に限られる社外取締役が社内の事情を把握するには時間がかかるのに、任期が2年とは短すぎる」との声が上がっている。

社外取締役に招かれるのはもっぱら官僚OBになった。社外取締役や監査役はこれまでにも増して官僚の天下り先となっている。別の大手商社では社外取締役に、外務省出身でプロ野球の「飛ぶボール」問題で火だるまになった加藤良三・日本野球機構コミッショナーが就いている。飛ぶボール問題で加藤コミッショナーがどのように振る舞ったのかを見れば、官僚OBが社外取締役の責任をどの程度積極的に果たすのかはかなり怪しい。企業は社外取締役制度を採り入れたと言っても、形だけなのだ。

こんな話もある。ある企業法務系の専門誌ではコーポレート・ガバナンスをテーマとした論文を専門家に依頼して掲載したが、論文作成に当たって出版社から付けられた注文は「オリンパスについては触れないで欲しい」というものだったそうだ。

損失隠しに手を染めた旧経営陣に対する有罪判決が下った今、「いつまでもオリンパスを叩き続けるのは生産的ではない」という考え方で“オリンパスに触れるな”と言うのなら頷けるが、そうではないらしい。

オリンパスの不正会計を見逃した新日本監査法人とあずさ監査法人に対し、日本公認会計士協会が7月に「お咎めなし」とした時もそうだ。プレスリリースの表題は「精密機器の製造販売事業会社の審査結果の公表について」。表題にも本文にも、新日本やあずさの名前は見当たらず、オリンパスの「オ」の字も出ていない。

何だろうか、この嫌な空気は。

周囲の雰囲気や意向を忖度して口をつぐみ、見て見ぬふりをしてこっそり丸く収めようとするのは、やはり日本人や日本企業が抱えている病理的な部分だ。これでは組織も社会も根腐りしてしまうことを、日本人や日本企業はオリンパス事件を通じて改めて考えさせられたはずではなかったか。

FACTAはオリンパス事件を通じ、ガバナンス問題だけでなく、会計監査の問題や内部告発など、様々な問題を根こそぎ暴いた。しかし上に記した事例を見る限り、日本社会はオリンパス事件を経てなお、何も変わっていないのだ。この貧しい成果をジャーナリズムの勝利とは到底呼べない。

(この記事は本日ロイターに配信したものです)