阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2013年3月 1日 27日のNHK「クローズアップ現代」はチンドン屋以下

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チンドン屋どころじゃなかった。NHKはもう報道機関の看板を下ろしたほうがいい。

言うまでもなく、本ブログで予告した2月27日の「クローズアップ現代」のことです。「密着レアアース調査船~“脱中国”はできるのか~」と題したルポの実態は、南鳥島沖の海底に眠るレアアースをダシに予算を獲得したい文部科学省や海洋研究開発機構(JAMSTEC)の片棒を担ぐ広報番組。そこまでは予想の範囲内でした。

ところが、海底レアアースの価値を誇張しようと、NHKがわざと事実を隠したりねじ曲げたりしているのに驚愕しました。報道機関としての一線を超えており、とても看過できない。

FACTAが2月号の記事『レアアース「脱中国」の大嘘』や本ブログで繰り返し言及してきたように、レアアース・バブルはすでに1年半前に崩壊し、価格はピークから7~8割も暴落しています。市場にはレアアースの在庫があふれている。中国の鉱山や精錬所が操業停止に追い込まれていることや、日本の磁石大手の日立金属が高値掴みしたレアアースの評価損150億円を計上する羽目に陥ったことも報じられており、NHKが知らないはずがありません。

にもかかわらず、番組ではこれらの事実にまったく触れなかったばかりか、あたかもレアアースの高騰が続いており、日本企業が入手難に苦しんでいるかのように巧みに演出した。もはや誤報どころか「ヤラセ」の域に近いと言えるでしょう。

放送を見逃した方もいるだろうから証拠を示します。番組中盤でレンズの研磨剤に使われるセリウムの価格高騰に苦しんでいるという工場が紹介され、下のグラフが画面に登場しました。

中国政府の輸出規制や2010年9月の“漁船衝突事件”の影響でセリウムの価格が17倍になったというものだが、グラフの横軸はなぜか2011年6月までしかない。その後、価格が暴落した事実を意図的に隠したのです。

さらに、番組では「セリウムの急激な値上がりで、この工場では(研磨剤の)新たな購入を控えている」と前置きして、経営者が「(研磨剤の在庫は)今はもうこれしかない、これでおしまい」、「もう手が出ない、その金額では」などと窮状を訴えるシーンを流した。レアアース市場の実態を知らない視聴者は、セリウムの高騰が今も続いていると信じたはずです。

事実はまったく違う。セリウムはレアアースの中でも資源量が豊富な元素の1つで、それゆえバブル崩壊後は市場でじゃぶじゃぶにだぶついています。しかも、米国のマウンテンパス鉱山や豪州のマウントウェルド鉱山など中国以外にも大量に埋蔵されているため、供給不安はほとんどない。ことセリウムに関しては、膨大なコストをかけて深さ4000メートル以上の海底からレアアースを採掘する必然性はゼロなのです。

こんなインチキ丸出しの番組作りでは、肝心の海底レアアースの価値もマユツバに見えてきます。断っておきますが、小生は海底レアアースの可能性そのものは否定しない。将来、画期的な技術革新により陸上の鉱山と競えるコストの採掘法が見つかるかもしれず、その日に備えて海底鉱床の探査を続けたり、採掘技術の研究を進めるのは意義なしとはしません。レアアースを“人質”に取ろうとした中国への牽制としても効果的でしょう。

とはいえ、海底レアアースの採掘がすぐにも商用化できそうな虚偽のイメージで視聴者を洗脳し、文科省や経産省が税金を湯水のように注ぎ込む口実作りに荷担するようでは、NHKが報道機関を名乗る資格はない。

現時点では、最先端の技術をもってしても海底レアアースの商用採掘は不可能です。実はNHKはそれを知っている。なぜなら、番組に出演した科学文化部の春野一彦記者が、採掘コストについて「母船や掘削設備の建造に700億円、運転コストに年間400億円」という試算を口頭で明らかにしたからです。

おいおい、気は確かかね。日本のレアアース輸入総額がバブルピークの2011年を除けば600~700億円程度に過ぎないことを知らないとは言わせません。しかも、これはレアアース合金のインゴットや酸化物パウダーなど精錬と加工を経た中間材料の金額。春野記者の試算が年間何千トンの生産を前提にしたものかは知らないが、深海から泥を引き上げ、薬剤を使ってレアアースを抽出するところまでのコストが年400億なんて悪い冗談にしか聞こえない。

百歩譲って商用採掘の可能性があるというなら、政府が採掘権を入札にかけて民間にやらせればよろしい。すでに鉱床の存在は明らかになったのだから、さらなる探査も含めて企業に任せれば税金を節約できます。少なくとも文科省や経産省よりはるかに効率的なのは、火を見るより明らかでしょう。