阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2013年2月18日 日経のレアアース報道のお粗末2

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懲りないなあ、日経も。

またお粗末なレアアース報道をしています。2月17日付の朝刊中面に掲載された「窮地に立つ日本企業 レアアース問題のその後」と題する記事。レアアースを原料に使う高性能磁石を生産する日本メーカーが、中国の新興磁石メーカーの安値攻勢、中国政府の自国産業保護、日本の経産省の技術移転規制などにより苦境に追い込まれているという。

実はこの記事、「電子版セレクション」と銘打っていて、もともと2月12日に日経電子版に掲載された記事をおよそ半分に短縮し、日経本紙の日曜版に転載したものです。電子版の原文もウェブサイトに残っているから、両方を読み比べれば、担当デスクがどの部分を削除したかが一目瞭然にわかります。

どこを新聞の読者に読ませたくないか、担当デスクの心理が丸見えなので、新聞研究には最適の教材じゃないだろうか。例えば原文にあった次のような部分が、本紙の記事ではきれいさっぱり消えています。

昨夏から、日本の大手をはじめとする世界のエアコンメーカーのあいだで、日本製磁石から割安のフェライト磁石へ切り替える動きが一気に進んだ。同じような現象がハードディスク駆動装置(HDD)や産業用コンプレッサー、スピーカーなどでも起こっている

「トヨタとホンダが中国企業から磁石のサンプルを取り寄せ始めた」。こんな噂が関係者の間で飛び交い始め、日本メーカーの焦りの色はいよいよ濃くなっている。

日立金属は1月30日、13年3月期の連結純利益が従来の増益予想から一転し、前期比33%減の120億円になるとの見通しを発表した。磁石の販売不振に加え、レアアースの評価損が150億円も発生。数年前からジスプロの在庫を積み増していたことが裏目に出てしまった。

もうおわかりでしょう? 日本の磁石メーカーの窮地は、中国の攻勢や経産省の規制だけが原因じゃない。ネオジム磁石に代表される高性能磁石は、日立金属、TDK、信越化学工業の日本企業3社が世界市場を独占してきました。彼らはそれに胡座をかき、高値づかみしたレアアース原料のコストを製品価格に転嫁しようとしたが、同じ日本の電機メーカーや自動車メーカーにそっぽを向かれた。さらにレアアース・バブルの実態を見誤り、相場暴落で原料在庫の損切りを余儀なくされているのです。

つまり経営の失敗と言える一面があるのに、担当デスクはその部分をごっそり削り、お定まりの「日本企業かわいそう論」に仕立てている。「企業に甘い意図的な改竄」と言われても反論できないでしょう。それとも、なぜ上記の部分を削ったのか、名乗り出て理由を言える勇気はあるだろうか。

しかも改竄した証拠を自ら公開してしまっているから、痛々しくて目も当てられない。仮に他の記事でもこんなデスクワークが横行しているのなら、日経の報道全体の信用にかかわります。電子版の担当者も、こそこそとこの証拠紙面を隠さないで、天下にさらしておいてください。

他にもいろいろあるが、もう1点だけ指摘しておこう。FACTAは最新号でネオジム磁石の発明者である佐川眞人氏のインタービュー記事を掲載しました。

佐川氏は1978年に発明の着想を得たものの、当時の勤務先の富士通から研究を認められず、わざわざ住友特殊金属(現日立金属)に移籍して82年にネオジム磁石を誕生させた。この発明は会社の命令ではなく、佐川氏が個人の独創的アイデアを評価してくれる企業を探し求め、自ら道を切り開いた成果です。その功績が認められ、日本版ノーベル賞と呼ばれる「日本国際賞」を昨年受賞しました。

ところが日経の記事は、佐川氏の個人名を出さず「日立金属の元社員が発明」と、まるで匿名のサラリーマン研究者が発明したように書いている。佐川氏は88年に住友特殊金属を退社しており、日立金属の社員だったことは一度もありません(住友特殊金属との合併は19年後の2007年)。日本が世界に誇る発明の功労者に対して、いくらなんでも無礼じゃありませんかね?

記事を書いた記者はおおかた、日立金属の広報かどこかの聞きかじりを鵜呑みにし、「元社員とは誰か」を調べる知的好奇心も持ち合わせていなかったのでしょう。記者の不勉強はもとより、こんな初歩的ミスに担当デスクも校閲も気付かないなんて赤っ恥もいいところ。日経の編集局全体の地力が落ちているのは間違いないようです。かつて在籍したOBの1人として、ますます悲しくなりますね。

もうこれ以上、レアアースの「不都合な真実」を隠す与太記事が載らないことを祈念いたします。