阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2013年2月 2日 日経のレアアース報道のお粗末

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思わず苦笑してしまいました。1月31日付の日経朝刊の国際面に載った『中国レアアース輸出額、12年は66%減 価格低迷で』と題する記事のことです。中国の通関統計から、2012年のレアアース「輸出額」が前年比66.1%も減少したことが判明。しかし「輸出量」は同3.5%しか減っておらず、輸出額の激減はレアアース価格の低迷が原因という内容です。

ポイントは価格低迷の理由。記事にはこう書かれています。

価格低迷の背景には、レアアース需要の急増にかけていた投機筋が損失覚悟の売りに動いたこともある。日本企業の技術開発などでレアアース需要の急激な増加が見込めなくなった。中国でもレアアースが高騰する11年夏まではエアコン向けなどに、レアアースが必要な高性能磁石を採用する動きが広がった。しかし、価格高騰を受け、急速に高性能磁石の使用を控えるようになった。

おやおや、と思いましたよ。この記事は中国特派員の署名入りですが、日経は昨年10月25日付の朝刊に同じ記者の署名で『中国、政治利用が裏目に レアアース生産停止』という記事を掲載。価格低迷の理由を次のように解説していました。

(中国政府が)供給を絞ったためにレアアース価格の暴騰を引き起こした。日本企業は代替品の開発で使用量を削減し、オーストラリアや米国など調達先の拡大にも動いた。この結果、中国産の需要が急減。11年夏をピークに価格が下落に転じた。

3カ月前は「日本企業の技術開発と調達先多様化」が理由だったのに、昨日の記事では「調達先多様化」がどこかに消えています。さらに、投機筋の投げ売りと中国企業の買い控えという新たな理由が加わっている。なぜこっそり変えたのでしょうか。

これは本誌2月号の記事『レアアース「脱中国」の大嘘』の影響に相違ありません。2011年のレアアース暴騰の正体は、中国の業者による輸出許可証の投機から生じたバブル。レアアースを大幅に節減できる新技術はまだ開発途上であり、需要激減の最大の理由は日本企業の在庫積み増し一巡です。調達先の多様化は見せかけで、中国産レアアースが第三国経由で日本に入っているだけ。経済産業省が540億円の税金を投じて権益確保に動いている中国以外の海外鉱山からは、まだ1kgのレアアースも日本に輸出されていない――等々、日本の大手紙が全く報じていなかった事実を本誌が明らかにしましたからね。この期におよんで3カ月前と同じ説明では、さすがにまずいと日経も考えたのでしょう。

とはいえ、レアアースバブルの発生と崩壊は1年以上前の出来事。なぜ3カ月前に正確な報道ができなかったのか、腑に落ちません。2つの記事に署名した記者を小生は直接知りませんが、伝え聞く話では現場を地道によく回るタイプだという。中国のレアアースバブルの実態を知らなかったとは考えにくい。

日経を含めて、新聞の多くは海外発の記事を記者の署名入りにしています。しかし、実際には複数の記者が分担して書くケースも多いし、日本の本社デスクの意見も反映されるのが普通です。

実は最近、海外駐在の記者から「本社デスクに記事を勝手に書き換えられた」「両論併記の記事を送ったら、片方の論だけ落とされた」「署名を外してくれと頼んでも無視された」などの愚痴をよく聞かされます。先の日経の記事も、レアアースで日本が中国に一矢を報いたという“美談”に仕立てたいがため、本社が手を加えたのではないか――。そう勘ぐりたくもなります。

もしこの憶測が事実なら、小生も短くない期間、籍を置いた新聞社ですから、悲しくなりますね。あなたがたは新聞をつくっていない。事実に基づかない自分の偏見と独断を読者に押し付けているだけです。記者の取材を改竄する担当デスクや局番、そして岡田直敏編集局長の奮起を望みたいところです。

それにしても、日経は中国の苦境を報じるのもよいが、バブル崩壊で高値づかみしたレアアースの過剰在庫を抱える日本企業の不都合はなぜ伝えないのか。また、相場暴落で市場環境が一変したにもかかわらず、経産省は血税1300億円を投じたレアアース対策を見直そうとしない。特定の産業に補助金を集中投下する「ターゲティング・ポリシー」の欠陥そのものなのに、なぜそこを突かないのか。“一流(?)経済メディア”としての地力が問われていますよ。